早とちり
陛下から隣国が不穏な動きがあると聞いて僕は隣国に乗り込むことに決めた。
さて、まず僕がこの国を出た事を知られるのは良くないよね。国境を出る前から不可視の魔法を使っておこう。
「首尾はどうだ?」
…ん?あれは
「なんとか整った」
怪しいな。しばらく観察してみるか。
「そうか、漸く我が悲願が叶う時が来たか。この時を待っていた」
「そうだな、お前はこのために人生の殆どをかけていたもんな」
こんな人目の無いところで密会か。それにしても貴族風の男は何を為そうとしているんだ?人生かけた悲願?戦争と関係が?
「あぁ、お前の協力があってこそだ。ありがとう」
「なに、お前は俺の恩人だこれくらいなんでもないさ」
「あの事は気にしなくて良いと言っているだろう、義理堅いにも程があるな。まぁそのおかげで助かっているのだから良いとしよう」
「それで、いつ始めるんだ?」
「そうだな、色々と噂が立ち始めたからな、早いとこ済ませてしまおう」
噂か、あいつは隣国と関係があるようだな。
「分かった。では次の光の日にでもやるか」
「ああ、それで頼む」
「では最後の準備に入る…ん?誰だ!」
「おっ、流石に気配を出したら気づくか。どうも」
「なんだ子供か、こんな所でどうした?迷子か?」
「いえ、そう言うわけではないんですがね、あなた達の会話を聞いてしまったもので、詳しく聞こうかなと」
「な、なんだと!今バレるのはまずい、貴様には暫く眠ってもらおう」
いきなりか、それだけヤバい事でもしようとしてたのか?
だが、何故眠ってもらうなんだ?ここは口封じに殺すとこだと思うんだが、まぁ良いか。
「そうですか、そちらがその気ならこちらも容赦はしない!」
「‼︎き、消えた⁉︎」
結構な魔力量で身体強化を使ったからな、常人には見えないだろう。
「ここだよ」
「いつの間に後ろに⁉︎ぐっ…」
「さて、僕の力も分かったでしょ?何をしようとしていたのか教えてもらおう」
「はぁ、分かったよ」
あれ?結構な簡単に話してくれるんだな、僕的にはその方が楽で良いんだけど。
「実は、我が領地に鉱山があってな、そこから産出される鉱石が純度の良いミスリルだったんだよ」
ん?思ってた話と違う気がしてきた。いや、そのミスリルを隣国に密輸する話かもしれない。
「そのミスリルをどうするつもりで?」
「昔から懇意している商会が上手く行ってないようだから、他の商会にこの事が知られる前に契約をしてしまおうと秘密裏に動いてたんだ」
あっれー、思ってたのと違う。やっぱり全然関係なかった。どうしよう、完全に僕の早とちりだよね。謝ったら許してくれるかな?ダメかな?ヤバい、テンパってきた。
「…えっと、あー、そう言う事でしたか」
「ん?君は別の商会の人間ではなかったのか?」
「い、いえ、違います。その、単に怪しかったので、隣国の噂もありその関係かと思いまして。……申し訳ありませんでした‼︎」
「そ、そうか。いや、我々も少々怪しい動きをしていたのは自覚しているから、そこまで気にしなくて良い。それより隣国の噂と言うのは…戦争の事か?」
やっぱり知っているか。さっき領地がどうのと言ってたもんな。
「はい」
「何故君みたいな子供が知っているんだ?あれは一部の人間にしか知られていないはず」
一部の人間?そうなのか?貴族なら大抵知っているのかと思ってた。そう言えば両親は何も言ってなかった。
「とある方より教えて頂きました」
「そのとある方とは誰だ?こんな子供に教えるなど何を考えているんだ」
「…あの、俺この場にいるのよくない気がするんだが」
あ、もう1人いるの忘れてた。
「ん?そう言われるとそうだな。すまんが今の会話は忘れてまた後日会おう」
「了解。とりあえず最後の準備に取り掛かるな」
「よろしく頼む…それで誰に聞いたんだ?」
これ言っていいのかな?陛下には内密に動けとは言われてないけどあんまり知られるのも良くないと思うんだよね。
「えっと、結構偉い人です」
結構偉いってなんだよ。自分の返答がおかしい。
「結構偉い人?ふむ、そう言えば自己紹介がまだだったな。私はハイゼル=フォン=バースだ」
バース⁉︎侯爵家じゃないか!
「し、失礼しました侯爵様‼︎私はアロイス=フォン=ベルクと申します」
「アロイス、と言う事は君がベルク家の神童か」
ベルク家の神童⁉︎なんだそれ、初めて聞いたぞ。
「あ、あの神童とはどう言う事ですか?」
「ん?知らないのか?わずか10歳にしてこの国最強戦力に匹敵するする力を身につけた、ベルク家の最終兵器。軍務に所属しているものは皆知っているぞ」
し、知らなかった。僕って最終兵器だったんだ。最終兵器を初っ端から使う陛下って…まぁ良いか。下手に戦争になるくらいなら出し惜しみする必要ないもんね。
「初めて知りました。なんだか自分の事をその様に言われるのは恥ずかしいですね。それに期待に添えない力しか持っていなかったら一生の恥ですね、ははは」
「それは、大丈夫だろ。学園の教員に確認して、間違いなく最強戦力に匹敵すると言われてるからな」
「なるほど」
「それで、話を戻すが誰に聞いた?」
「国王陛下です」
僕のこと知ってるなら隠さなくても良いよね。
「陛下か、なるほど。では何か指示を受けているのか?」
「はい。戦争になる前にどうにかしてくれと言われたので、これから隣国に乗り込んで向こうの王を捕らえようかと」
「さ、さすがベルク家だな。やる事が他の者達と違うな」
ん?普通はそんな考えにならないのか?戦争になるなら相手の王を取れば即決着がつくと思うんだけどな。
「そうですか?誰しもが相手の一番偉い人をとるのが早いと考えると思いますよ?」
「それを実行出来る者がまずいない。まぁだからこそのベルク家なんだがな」
そういうものか。
「えっと、それで今回の件なのですが…」
「それについてはお互い無かったことにしよう」
「よろしいのですか?」
「あぁ、私にとっても、君にとってもその方が都合が良いからな」
「あ、ありがとうございます」
良かった。侯爵家に手を出したなんて僕の立場では許されることじゃないから助かった。
「いや、良いんだ。それより頑張ってくれ。君の働きによって全てが変わる」
責任重大ってことだよね。
「はい。それについてはしっかりと任務を果たそうと思います」
「よろしく頼んだ」
「はい。それでは失礼します」




