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第23話 今度は私たちが、リリアン様を守ります

「リリアン様を笑わないで!」


マリアベル様の悲痛で、けれど決して折れない強い叫びが、ラザフォード侯爵家の薔薇園に響き渡った。


ヴィクトリア夫人とその取り巻きたちは、マリアベル様の突然の反逆を理解できず、呆然と口を開けて固まっている。

社交界の作法において、上位の者に逆らうこと、ましてや大声を出して場を乱すことなど、決して許されない大罪だ。


「マ、マリアベル……? あなた、自分が何を言っているのか分かっているの?」


取り巻きの令嬢が、信じられないものを見るような声で震えた。


「ええ、分かっています。私は……」


マリアベル様はギュッと両手を胸の前で握りしめ、青白い頬を紅潮させながら、ヴィクトリア夫人を真っ直ぐに見据えた。


「私はもう、あなた方の決めた『美しさ』に自分を殺されるのはごめんです。リリアン様は、骨と皮だけになって死にかけていた私に、温かいスープを飲ませてくれた。食べることを、生きることを許してくださった。……あの方の優しさを、大きなケーキを押し付けて笑い者にするあなたたちに、あの方を笑う資格なんてありません!」


それは、彼女がずっと押し殺してきた、魂からの本音だった。


「その通りですわ」


マリアベル様の声に呼応するように、別の席で、ガタッと椅子が鳴る音がした。

立ち上がったのは、背が高く肩幅の広い、カミラ様だった。


「リリアン様は、私のこの大きな身体を『ドレスがよく映える素晴らしいお姿だ』と褒めてくださいました。女らしくないと私を笑う人たちの中で、あの方だけが、私をありのまま認めてくださった。……私たちは、あの方の優しさに救われたのです」


さらに、カミラ様の隣で、厚化粧で素顔を隠したアイリス様も、震える足で立ち上がった。


「わ、私も……。お化粧で顔を隠す私を、リリアン様は無理に暴こうとせず、私が安心できる暗い席を……ただ、用意してくださった。……あの方を、これ以上傷つけないでください」


次々と立ち上がる令嬢たち。

彼女たちは皆、月夜の晩餐会に招かれ、そこで自分の息継ぎの場所を見つけた者たちだった。

恐怖に肩を震わせながらも、誰もが私の前に庇うように立ち塞がり、ヴィクトリア夫人たちに向かって明確な拒絶の意思を示していた。


「あなたたち……正気ですか。ヴィクトリア様のお茶会で、そのような振る舞いが許されるとでも?」


取り巻きの令嬢が金切り声を上げたが、マリアベル様は静かに首を振った。


「ええ。ですから、私たちはこれで失礼いたします。……リリアン様、帰りましょう。あんな意地悪なケーキより、リリアン様の温室で食べる焼きたてのパンの方が、ずっと美味しいですから」


マリアベル様が私に向かって、あの温室で見せてくれたのと同じ、優しい微笑みを向けて手を差し出した。


「……マリアベル様」


差し出されたその手を取った瞬間、私の目から、ポロリと一粒の涙がこぼれ落ちた。


私はずっと、自分の価値を低く見積もっていた。

誰かに嘲笑われても、自分が笑いものになれば丸く収まるのだと、そうやって自分の心を騙し続けてきた。他人のためには怒れても、自分のためには決して立ち上がれなかった。


けれど、彼女たちは違った。

私が必死に守ろうとした彼女たちが、今度は自分の意思で立ち上がり、震える足で、私を守る盾となってくれたのだ。


初めて、誰かに守られる温かさ。

自分のために怒ってくれる人がいるという事実が、私の冷え切っていた心を、たまらなく熱く溶かしていった。


「……ええ。帰りましょう、皆様」


私は涙を拭い、彼女たちと共に、ヴィクトリア夫人に向かって静かに一礼した。


「本日はお招きいただき、ありがとうございました。ですが、私たちには帰る場所がございますので」


私と、それに続く数名の令嬢たちは、呆然と立ち尽くすヴィクトリア派の貴族たちを残し、揃って薔薇園を後にした。

社交界の頂点に立つ女主人の茶会から、自分の意思で途中退席するなど、前代未聞の出来事だった。


その日の夜。

フォンドール家の温室に集まった私たちは、誰からともなく笑い合い、いつもより少しだけ多めに焼いたパンと、甘い林檎のコンポートを頬張った。


誰も、自分の体型を気にして食べるのを躊躇ったりはしなかった。


温室の中央に置かれた『月夜の記録帳』には、その夜、彼女たちが自分で綴った新しい言葉がいくつも増えていた。

それはもう、傷つけられた悲痛な叫びではない。自分の足で立ち、自分の意思で選んだ者たちの、力強い決意の言葉だった。


この日を境に、社交界の勢力図は明確に二つに分かれることになる。

細く、白く、静かに自分を削ることを良しとする伝統的な派閥に対し、自由に食べ、笑い、ありのままの自分を肯定する者たち。


社交界で『月夜派』という言葉が生まれるのは、この茶会のすぐ翌日のことだった。

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