おかえり・ただいま
電子キーをかざす。エアが抜けるプシュッという音とともにドアがスライドした。
「ただい……ま?」
ぐに。
挨拶とかいう無用の文化の残骸が、違和感で途切れる。
見下ろすと、足の縁から何かがはみ出している。
透明でぷるぷるした……
『き゜ゅみ゜……』
天使だった。
「え、なに。なんでそんなとこいんの?」
長時間の留守の間、ずっと入り口に張り付いていたのだろうか。こころなしかぷるぷるボディにつやがない。
足をどけると、胴体の中央がしっかりへこんでいた。
『み゜……み゜ゅ……』
これはまた錯乱して跳び回るパターンか?と身構えていると。
『み゜ゅわ゜ーーーー!!』
「ぎゃー!?」
しっぽがぎゅるんと伸びて俺の腕に巻き付いた。
一瞬防御が必要かと焦ったが、ただ強く絡みつくだけでそれ以上は何もない。
「おい……?」
おそるおそるしゃがんで覗き込むと、しなびたボディからじわじわと液体が溢れてきた。
「ちょ、何だよ。な……泣いてんの?」
『み゜ぃ……み゜ー……』
擬音にするならしくしくといった感じだろうか。
かなりしょんぼりした感じの音を漏らしながら天使が液体をこぼしている。
水槽から出て長時間経った体はへこみが戻るどころか、みるみる萎れていく。
「わ、わかった!わかったから!!おやつやるよ!かき氷シロップとかどうだ!?」
『……み゜!?』
あ、止まった。
シロップを出した皿に天使は頭を突っ込んでいる。
尻尾はまだ俺の手に巻き付いたままだ。
「なあ、そろそろ離さない?」
『†☆%☽#'$♪』
「聞けよ」
上機嫌に尻尾の先をぺちぺちと当ててくる天使にため息をついて、俺は軽はずみにおやつを提案したことをちょっと後悔しながらシロップを注ぎ足した。




