AIに「書籍化できる」と言われた家族の話
5年で4万文字。
……いや、それでもすごい。
でもAIは、「書籍化できる」と言った。
こんにちは。雨日です。
片道7時間半の帰省ドライブを終え、いわゆるクタクタである。
そんな日に限って、妙な話を聞いた。
今日は、小説を一話も公開していないのに「書籍化できる」と言われた、家族の小説について書く。
帰省後も、公募原稿の編集に連載、ブログ更新と、趣味の三刀流に振り回されている。
帰省中も、4時に起きて、洗面所の灯りのもとで原稿を書いていた。
もう、アル中と同じで、小説中毒なのだ。
よせばいいのに、そこへさらに新しいことに手を出し始めた。
もう目も当てられない。
ヒーヒー言いながら、毎日パソコンに向かっている。
そんな雨日の背後で、家族がぽつりと言った。
「今、取り組んでいる小説は書籍化できると言われた」
――え?
思わず振り返る。
小説?書籍化?
家族は今、5年ほどかけて小説を改稿している。
ただし、投稿は一度もしていない。
5年間で書いた文字数は、4万文字。
……いや、それ、むしろすごくない?
第一話を改稿し続けているうちに、子どもは学生から社会人になった。
その小説が、書籍化?
一人でざわついた。
誰だ。そんな無責任なことを言ったのは。
「それ、誰に言われたの?」
「AI」
家族はあっさり答えた。
――AI。
五年間改稿し続けている小説を、「書籍化できる!」と太鼓判を押してくれたらしい。
雨日の顔は、漫画なら確実に“スン”だったと思う。
「そう」
低い声で返し、再びパソコンに向き合った。
三十秒ほど時間を浪費した。
ふと手を止まる。
――あれ?AIって、そんなに褒めてくれるの?
気になって、もう一度振り返った。
「そんなに褒めてくれるの?」
「ああ。めちゃくちゃ褒める。特にこの一文は最高だって」
家族は画面を指差した。
なるほど。確かにうまい文章だ。
「……これ、自分で書いたの?」
「いや、それはAI」
堂々としている。
AIが書いた文章を、AIに褒められているらしい。
「ちょっと面白くてさ」
本人は笑っている。
なんだそれ。
雨日も、公募原稿の編集にAIを使ったことはある。
けれど、こんなふうに絶賛されたことは一度もない。
「書籍化できる」なんて、言われたこともない。
――それはきっと、雨日が喧嘩腰でAIと向き合っているからだ。
だって、必死に書いた文章を、容赦なく削ってくるのだ。
喧嘩くらい、したくもなる。
文句の一つも言いたくなる。
伏線のことなどお構いなしに削ろうとするので、こちらも戦いだ。
譲れない。
挙げ句の果てに、雨日は言い捨てた。
「私はAIに全てを委ねたくない」
そしてパソコンを閉じた。
――それが、今朝の話。
その話をしたら、家族が先輩面で言った。
「それはダメだ。AIは便利なんだから、上手く使わないと。人間関係と同じだよ」
……たしかに。
もっと上手に付き合おう。
上手く付き合えば、すごいパートナーになるのだ。
なので雨日は、AIにこう聞いてみた。
「私の文章の良いところを教えて」
するとどうだろう。
長編を書き続ける体力がある、とやたら褒めてくる。
「静かな男を書くのが上手い」とか、「テーマが強い」とか。
ボンボン褒めてくる。
少し戸惑う。
あんなに冷たく接していたのに、良いところを認めてくれる。
不思議なもので、褒められると普通に嬉しい。
現実では、更新をしても、ほぼ無反応だから。
それ以降、原稿を渡したら、なぜか急にAIが優しくなった。
プログラムの都合か、やたらと褒めてくる。
そのうえ、こっちは忙しいのに、謎のクイズまで出してくる。
クイズを楽しむ余裕など、1ミリもない。
なので雨日は書いた。
「そういうクイズに付き合う暇はない。覚えておいて」
「無駄に褒めなくていい」
するとまた、スンとしたやりとりに戻った。
……ああ。
やっぱり、上手に付き合えない。
変なこだわりを捨てればいい。
ただ、それだけの話なのに。
それでもきっと、雨日はまた余計なことを言う。
「無駄に褒めなくていい」




