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第53話 壊創

―――――

――――

―――

――


 辺り一面、真っ赤な空間には上も下も右も左も無かった。

 全ての時間が止まったような場所には無傷の蓮と一蓮が立っている。



『ここは…』


『一蓮さん、時間がありません。これから一蓮さんの未来を灼きます』


『未来を…やく?』


『はい。貴女が死ぬという未来を壊し、生きている未来を創ります。一蓮さんは新しい道を歩んで下さい』


『随分と強引かな』


『刺された時、こんな所で終わる筈じゃないと思っていましたよね。僕も同感です。一蓮さんはここで死ぬべきではない』


『そっか。一つだけ良いかな?その新しい道は君も一緒に歩んでくれるのかな?』


『………………』


『答えて欲しいかな。…お願い』


『…可能な限り善処します』


『ズルい子だなぁ』


 蓮の中に眠っていた能力チカラと授かった能力チカラ達により発現した蓮だけの能力チカラは、指定した未来を無かった事にして、過去と未来を繋ぐものである。



 一蓮が死亡する未来をマーキングし、その先の未来を全て灼き尽くした。

 真っ暗だった一蓮の未来は閉ざされ、光差す新たな道が蛇行しながら伸びて行く。

 その道はどこまでも続いた。


―――――

――――

―――

――



 一蓮は蓮の腕の中で息を引き取ったが、二秒後には息を吹き返していた。



「良かった。生きてる」


 安堵の息を漏らした蓮は大量出血と瞳術発動によって大幅に体力を削られ、意識を保つ事も困難になっていた。

 意識を手放そうかという時、荷馬車の前方が揺れ、かけられていた布を勢いよく捲った少女の姿が目に入った。



「ここに居たのね」


 少女の背後で馬を走らせていたのは江軍の兵士では無く、こちらもまた少女だった。



「瑠捺、このまま江軍領の村に向かいなさい」


 命令を受け、少女は馬の方向を変えた。



「それで、一蓮は?」


 荷台に乗り込んだ少女は蓮の傍にしゃがみ込み、一蓮の顔を見下ろした。

 荷台の中では陽の光が遮られ、少女は少年へと変わる。



「おい、どうした」


 返事がない為、視線を一蓮から外すと気を失い、後ろに倒れそうになっている蓮が居た。

 咄嗟に手を伸ばし、身体を引き寄せた椿は蓮を一蓮の隣に寝かせた。

 二人の身体を確認したが、特に目立った外傷は無く、ただ気を失っているようだった。



 荷台から外に出た椿姫は瑠捺の隣に座り、足をぶらぶらと揺らし始めた。



「たまにはこういうのも悪くないわね」


「鏡華様に叱られますよ」


 うむ、と小さく唸るフリをする椿姫は始終笑顔だ。



「私達は連れ立って、少し長めの厠に行くだけよ。隊長が言い訳するから大丈夫」


「私は厠には行きません。阿の姫様はもっと行きません。だから、そんな言い訳では鏡華様は納得されませんよ」


 真顔で可笑しな事を言う瑠捺はジッと椿姫を見つめていた。

 呆れを通り越して可愛く思える部下の額まで指を持っていき、力を込める。



「馬鹿な事、言ってないで前を見てなさい」


「あぅ」


 瑠捺に向けたデコピンは乾いた音を鳴らした。




 その頃、遊撃部隊の隊長はブツブツと文句を呟きながら偵察を終えて、鏡華の元へ帰還していた。

 今後の事を考えると非常に憂鬱な気持ちだった。

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