表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

97/191

第51話 九条 幾斗の脅威

                  ◇


 一諾の情報通り、九条 幾斗率いる伊軍は新生江軍への侵攻を開始した。

 迎え撃つ形で陣を展開した一蓮は舌戦を仕掛けたが、伊軍はそれに応える事なく開戦した。



 前線には一蓮を筆頭にニ猫、四蘭が配置され、後方には七杏を指揮官にして一諾、五虎、蓮が配置された。

 七杏の指揮はこれが二回目だと言うのに、その成長振りには目を見張る物があった。

 一諾と五虎が両翼から援護しているとは言え、しっかりと手腕を振るっている。



 前線では両軍が激しくぶつかっており、その中には九条 幾斗の姿もあった。



「舌戦に付き合ってくれなかった空気の読めない男かな!」


「あれ、意味ないでしょ」


 互いに不敵な笑みを浮かべ、鍔迫り合いを続ける一蓮と九条 幾斗。

 何かを探す九条 幾斗の視線に気付いた一蓮の剣撃が激しさを増した。

 見事に捌き切った上で反撃を繰り出した九条 幾斗を密かに称賛しながら一蓮は膝を付いた。



「あぁ、後方に居るのか」


 呟き、一蓮を放置して江軍の後方部隊へ歩み始める。



「二猫!」


 飛びかかったニ猫は九条 幾斗の剣を受け、吹っ飛ばされた。



「こいつぁ、強ぇ」


 ニ猫にも興味を示さない九条 幾斗は兵を倒しながら突き進み、誰にも止められないまま七杏の元まで辿り着かれた。

 七杏を庇うように立ち塞がる蓮を見て、九条 幾斗は不敵な笑みをより深くした。



「久々だね」


「九条 幾斗さんでしたよね」


 椿の話だと今の九条 幾斗は以前と異なるようだ。

 強者を目の前にして蓮は呼吸を忘れた。

 苦痛に耐えかねた身体の反応で自身の異変を悟った蓮が肺へ空気を送り込んだのと、九条 幾斗の攻撃は同時だった。



 鞭刀『玉簾』に手をかけていなければ、切られていただろう。

 展開した鞭刀『玉簾』で応戦する蓮の隙を突き、九条 幾斗は後方の七杏に向けて剣を突き出した。

 振り向いていたならば、間に合わなかった筈だ。

 蓮は背後の七杏と九条 幾斗の位置関係を予測し、鞭刀『玉簾』をうねらせた。

 九条 幾斗の剣は鞭刀『玉簾』に阻まれ、七杏には届かない。

 そして、鞭刀『玉簾』は九条 幾斗の腹に何重にも巻き付いた。



「凰花流、第100の型、鐵板テッバン


 蓮の両足を中心に地面が割れて、足が沈み込む。

 両手で柄を持つ蓮は腕力に依存せず全身をしならせながら、鞭刀『玉簾』をぶん回し始めた。

 遠心力を帯びた鞭刀『玉簾』は頭上で回転を続けた末に、九条 幾斗の腹に巻き付いた刀身のロックを解除した。

 その勢いの全ては九条 幾斗の身に降りかかり、ハンマー投げの要領で前線方面へ投げ飛ばされた。



「凰花流、第21の型、跳軽脚チョウケイキャク


 めり込んだ両足で地面を蹴り飛ばした蓮は空高く跳び上がり、勢いよく飛んでいく九条 幾斗の足に鞭刀『玉簾』を巻き付けた。

 一定の距離を保ちながら空を飛ぶ二人を見上げる兵達は口をあんぐりと開けている。



 着地時の衝撃を逃した九条 幾斗は地面を削りながら、その勢いが衰えるまで待った。

 対して蓮は九条 幾斗の足から鞭刀『玉簾』を離し、受け身を取りながら地面を転がった。

 身体を起こした蓮はその勢いに任せて、九条 幾斗へ貫手を向けた。

 数十メートルに渡り地面を削り、姿勢を整えた九条 幾斗の眼前に広がる土煙の中から、蓮の手が飛び出した。

 煙が晴れると二人はガッチリと互いの手を受け止め合っていた。



「凰花流、第32の型、月砕ゲッサイ


 直撃すれば顎が粉砕されるであろう軌跡を描く蓮の右足を躱した事で二人の距離が離れた。

 その微妙な距離感が凰花流を使用するのに大きく影響する。



「第68の型、兎狩トガリ


 左腕で仰け反る九条 幾斗の右腕を掴んだ蓮は大きく肩を回し、重心の位置を巧みに操作した上で軸足を刈り取る。



「第75の型、挟肘膝キョウチュウシツ、第85の型、指喉突シコウトツ


 宙を舞う九条 幾斗の背中に膝を割り込ませ、空いている右肘を鳩尾へ沈ませる。

 自分の方を向いている掌を九条 幾斗側に反転させ、二本貫手を作り、肘を伸ばした。

 貫手は九条 幾斗の喉へ吸い込まれ、一時的に呼吸を停止させた。



 流れるような型の連なりを受け、九条 幾斗は四つ這いとなり嗚咽を漏らした。

 ヒューヒューと苦痛の音が鳴り続いたがやがて消失し、何事も無かったかのように立ち上がった。



「そうか。凰花流はそうやって使うのか」


 ケロッとしている九条 幾斗に不快感を抱きながら蓮は構え直した。

 その時、前に出した左腕にスッと線が入り、ジワジワと血液が膨らんだ後に流れ出した。

 血液が落ちる前に舐めとった蓮の雰囲気が変化する。



「許さないぞ」


 丁寧に出血を舐めると腕の切り傷は綺麗さっぱり無くなっていた。



「…なるほどね」


 同時に距離を詰めた二人がぶつかった衝撃で砂が舞う。

 砂埃の中から現れたのは大きな影だった。



「くッ!?」


 蓮の背後にしがみ付いた九条 幾斗は蓮の四肢に己の四肢を巻き付けていく。

 その様はまさに蛇だった。

 各関節を外した九条 幾斗は完璧に蓮の動きを封じ込めた。



「…君ッ!?」


 背後から操り人形のように蓮を動かし、一蓮の側までゆっくりと移動した。

 そして、一蓮がこちらを視認した時、それは起こった。

 ズンと何かが突き抜ける感覚の後に身体の内側から燃えるような熱さを感じた。



「一蓮さんッ!」


「姉貴ッ!」


 蓮とニ猫の叫びを聞き、下を向くと胸から剣が突き出ていた。

 身体を貫かれたのだと理解した途端、尋常ではない痛みに襲われ、一蓮は立っていられなくなった。



「こんな……で」


 一蓮を刺した男は剣を抜かず、蓮の前に立った。

 抵抗する蓮の後ろで九条 幾斗が頷くと、男はもう一本の剣を振りかぶった。



「こいつも刺して剣を折っておいて」


 九条 幾斗の声が離れていく。

 蓮の腹が貫かれると同時に九条 幾斗が離れた。

 男は命令通りに蓮の腹部を貫いた剣を真っ二つにおり、簡単には抜けない状態へと陥れた。



「血が…血がッ!」


 この期に及んでも自分の生死よりも、さくらの血を優先する蓮には目もくれず九条 幾斗は高らかに命令した。



「全軍、撤退!」


 伊軍が迅速に後退を開始すると、江軍が猛追撃を開始した。

 先陣を切ったのはニ猫と四蘭である。

 そして、一蓮と蓮が刺されたという情報が後方の七杏の耳に入り、明確な命令が下された。



「全軍突撃ッ!一姉様をッ!総大将の血を撒き散らした者共を生きて返すなッ!」


 涙を溜めて叫ぶ七杏の怒り、悲しみ、憎しみは全軍へ伝染した。

 ただ目の前の敵を斬るだけの軍団となった彼らは誰にも止められない。

 それは一蓮や一諾であってもだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ