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第49話 憩いのひととき

 世間では一蓮が一諾を倒したという事になっているが、実際はそうではない。



 一諾の協力によって領土と兵力を拡大できた上に、元宇軍領の住民達は一蓮を受け入れるようになり、内乱や一揆は起こらなかった。

 結果論だが、一諾を殺さないという選択をした恩恵は凄まじく大きかった。



 この時点で既に以前の異世界と進んできた道は異なっているが、当然ながら蓮は知る由もない。

 椿は以前の異世界で阿軍が宇軍を壊滅させた事を覚えているが、今回の歴史の改変は致し方ない事だと割り切っていた。



 以前も今回も一蓮の目的である、宇軍のからの独立は達せられている。

 以前は恐怖と誤解から、本来の目的を忘れた一蓮が阿軍を攻め込んで椿姫に敗北した。

 しかし、今回は沈黙を続ける心積もりだ。

 彼女の願いは自分を信じてくれる家族や民達が笑顔で過ごせる事である。

 相手から攻めて来ない限り、こちらから手を出すつもりはないとかねてより明言していた。



「一姉様!叔母様!今日という日は言わせていただきます!」


 いつになく激しい剣幕の七杏は仲良さげな二人の前で仁王立ちとなっていた。

 特に思い当たる節のない二人は顔を見合わせている。



「一姉様!少し平和ボケが過ぎませんか!?これでは民に示しがつきません!」


 一蓮はよく出歩いているが、書類業務を疎かにした事はない。

 反論するならば、ここ最近はより効率良く仕事を終え、空いた時間を自由に過ごしているのだ。

 文句を言わせる筋合いはなかった。



「叔母様!こんなに頻回にこちらを訪れる必要はない筈です!」


 矛先が自分に向いても怯む様子はなく、一諾は七杏を見下ろしている。

 政務も軍務も順調過ぎる為、使いの者に代わり、自ら報告に参上しているのだ。

 何も不正はしていない、と言うのが一諾の言い分だった。



「お前の妹は何故、こんなにも機嫌が悪いのじゃ?」


「さぁ。それは本人しか分からないかな」


 顔を寄せ合い、ヒソヒソと話す二人を引き離した七杏は更に声を荒げた。



「それにッ!」


 ビシッと二人の間を指さす。



「何故、いつも蓮を挟んでいるのですか!?横並びで廊下を歩かれると非常に邪魔です!」


 指摘通り、一蓮と一諾の間には蓮がいる。

 これが日常になりつつあり、あまり違和感はないが、確かに歩き方には気をつけるべきだと二人は納得した。



「なーんだ、嫉妬かな」

「なんじゃ、嫉妬か」


 満面の笑顔の一蓮と呆れた顔の一諾はまたしても顔を見合わせた。

 蓮に当事者である自覚はなく、仲の良い義姉妹達だとしか思っていなかった。



「仕方ないかな。私は一諾と話があるから、七杏に蓮を貸してあげるかな」


 蓮の背中を押し、七杏に突き出した一蓮は一諾と共に踵を返した。



「一姉様、蓮は物ではありませんッ!行くぞ、蓮」


 手を取り、歩き出した七杏に引っ張られる蓮は抵抗する事なく、足を動かした。

 そんな二人を見届けた一蓮と一諾はため息を吐いて、顔を見合わせた。



「七杏も可愛らしくなったな」


 一諾は未婚だが、可愛い我が子を見ている気分だった。



「二人が上手くいっているようで一安心かな」


 一蓮は既に未来を見据えている。

 自分が居なくなった時には七杏に跡を継がせるつもりだった。

 母のようにいつ命を落とすか分からない。

 それに蓮がいつまで側に居てくれるかも分からない。

 蓮に事情がある事は重々承知しているが、一蓮にも事情があるのだ。



「それで、伊軍は怪しい動きをしているのかな?」


「うむ。気をつけた方が良いじゃろうな」


 一蓮から渡された文を読みながら返答した一諾は、流し読みした文をサッと返した。

 伊軍が攻めて来るのは時間の問題だった。



「九条とか言う天の住人は大義名分を謳っているが、いまいち理解できん。ただの戦闘狂ではないか?」


「そうかな?何か違う気もするけど、モヤモヤするかな」


 霧がかったように思考が纏まらない一蓮だったが一諾と別れた後、一目散に目的地へと向かった。

 目的地とは勿論、蓮と七杏の元である。

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