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第46話 一諾、一蓮との交流

 蓮が到着すると既に二人の人影が大きな墓石の周りを掃除していた。

 無言で二人に混ざり、掃除を手伝う。

 墓石も綺麗に磨き、満足気に頷いた一諾は草の上に座り込んだ。



「小僧、妾の隣に座れ。一蓮はその隣じゃ」


 一諾と一蓮に挟まれた蓮は墓石を見上げながら、この世界に来てからの事を振り返った。

 沢山の人に会い、沢山の出来事が起こった。

 全てはここから始まったのだ。



「小僧に話しておく事がある」


 一諾は懐から折り畳まれた紙を取り出し、丁寧に開いてから蓮に手渡した。

 その紙は折り目が破けており、長期間大切に保管されていた事が見て取れた。

 蓮は慎重に受け取り、書かれた内容を読んで目を見開いた。

 そこには江軍の始まりから終わりまでが詳細に記録されていた。

 否。それは記録ではなく指示と予言だった。



 驚きを隠せない蓮を横目に一諾はゆっくりと語り始めた。

 話す内容は予め決めておいたのだろう。

 しかし、慎重に言葉を選びながら、噛み締める様に言葉は紡がれた。



―――

――


 一諾と一蓮の関係性は叔母と姪である。

 一蓮の母――零鉚レイルが長女である一蓮を産んだ年に一諾も産まれた。

 零鉚と一諾の続柄は姉妹である。

 つまり母は娘が孫を出産している隣で、娘を産んだのだ。

 しかし、母は生まれたばかりの娘の名付けから子育てまでの全てを零鉚に任せた。

 零鉚は娘に一蓮と、妹に一諾と名付け、双子同然に平等に愛し育てた。

 一諾と一蓮も自分達は姉妹だと思い生きていたが、物心をつく頃に本当の続柄を教えられた。

 それでも、二人にとって続柄などはどうでも良い事で仲の良い姉妹として生活を続けた。

 零鉚は子を産み続け、九人の子の母親となった。



 九人目の子を出産間近に控えた姉に呼び出された一諾は一枚の紙を渡された。

 そこにはあらゆる状況を想定した未来とその時の選択肢が記されていた。

 姉からの命令はこうだ。



――私に代わり一蓮を育てなさい。

  この軍を母から受け継ぎなさい。

  軍を大きくし、その一角を一蓮に与えなさい。

  一蓮に多くの経験をさせなさい。でも手柄は全て奪いなさい。

  敵に付け入る隙を与えないように一諾が一蓮を支配しなさい。

  七杏、八春パーチェン九玉クゥギョクは一諾の側で育てなさい。

  一蓮は必ず妹達を取り返しに来る。その時は七杏だけを返しなさい。

  八春、九玉はいずれ一蓮に奪われるから、その時は見過ごしてあげなさい。

  一蓮が宣戦布告してきたら、全力で戦いなさい。

  負けた場合は家臣を捨てて、一人で逃げなさい。

  追い詰められたら無様に抵抗しなさい。

  殺されたなら、私を恨みながら死になさい。

  生かされたのなら、全てを話しなさい。

  これまで一蓮にしてきた事を全てやらせてあげなさい。

  そして死ぬまで一蓮を支えなさい。

  戦に勝った場合はこれまで通り一蓮を支配し、一蓮が勝つまで戦い続けなさい。

  何度やっても一蓮が一諾に勝てないようであれば、そのまま飼い殺しなさい。


―――

――


 蓮は紙を破り捨ててしまう前に一諾に突き返した。

 読んでいて気分の良い物ではない。

 それは一蓮にとっても同じだったようで、墓石を見上げて何も語ろうとはしかなった。



「こんなのあんまりです。これじゃ、一諾さんは何の為に生きているんですか!?」


「これが姉であり義母ははである、あの人の愛情表現じゃ。妾の為に怒ってくれるのは嬉しいが最後まで読め、小僧」


 突き返された紙を見つめると最後に数行の文章が記されていた。



―――

――


――もしも、一諾と一蓮が姉妹として以前のように同じ道を歩む事が出来るとすれば、それは他者の介入が不可欠。

  その者は未来を変える力を持つ特別な男の子。

  私が引き裂いた可愛い娘達を繋げる事が出来る、そんな者が居るなら一度お目にかかりたいかな。


―――

――



 一諾の姉で一蓮の母は凰花 蓮という存在を予見していた。

 紅爛鳳凰眼本来の能力チカラを発揮させる事は出来なかったが、不完全な紅爛鳳凰眼は一諾の未来の全てではなく、数日間だけを消失させた。

 その結果、一諾は過去から解放され、一蓮達に全てを打ち明ける事が出来たのだった。



 今回の話は他の兄妹達にも伝わっており、自分達の叔母は母親によって悪役を演じさせられていただけと認識している。

 唯一、五虎だけは幼い頃から好きだった叔母を信じていたが、母親の先見の明には驚かされた。



「君のお陰で私は叔母を…姉を殺さずに済んだかな。感謝してもしきれないかな」


 墓石から蓮へと視線を移した一蓮は手を取り、力強く握りしめた。



「妾も小僧を信じて良かった」


 反対側から肩に置かれた手の温もりを感じながら蓮は疑問を口にした。



「その手記の人物がどうして僕だと?」


「小僧はその首飾りを七杏から贈られたのだろう?それは元々、妾の母の物だ。母から姉に、姉から妾に、妾から一蓮に、一蓮から七杏に、と巡り巡って小僧に行き着いた。だから…かな」


 蓮が一歩引いて座り直した事で三人は三角形を作り、互いに手を取り合った。

 澄み切った空を眺め、遠い彼方に居る義母ははに思いを寄せる。



――さくらさん。この力、少しだけ好きになれそうです。

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