第45話 七杏との交流
廊下を歩いていた蓮は中庭の椅子に座り一人佇む七杏を見つけた。
そちらに向かおうとしたが、一諾の件を思い出して顔を背けた。
しかし、ここで逃げては今後、会話出来る日が来るのか不安になり、意を決して七杏の元へ歩き出した。
七杏は机に肘をつき、目を閉じていた。
まだ幼さの残る顔つきの同い年くらいの少女。
疲労感からか眉間に皺を寄せていた。
「七杏さん」
ゆっくりと目を開き、少し離れた所にいる蓮を見上げた。
「…なんだ?」
酷く疲れている様に見え、声をかけた事を悔やんだ。
「どうした、何か用があるのだろう?」
「少し、話をしたくて」
七杏は向かいの椅子へ座るように促した。
蓮が椅子に腰掛けるのと同時に侍女が飲み物を持って来た。
「凰花様の分もお持ち致します」
侍女が蓮の飲み物を持ってくる間、二人は一言も話さなかった。
七杏が杯を傾け、小さな音を立てて机に置いた時、侍女が戻ってきた。
手慣れた手つきで杯に茶を注ぎ一礼して去る。
一連の動作は秀麗で王族に仕える者として申し分ない。
「それで、どうした?」
蓮は手元を見つめていた。
七杏はそれ以上の言葉を続けずに返答を待つ。
「すみませんでした」
一度、頭を上げて七杏と視線を合わせた蓮はそのまま頭を下げた。
「…私の方こそ、すまなかった。ずっと悩んでいたのだ。私がもっと柔軟であったなら、蓮と仲違いしなかったのではないかと」
「あの状況では仕方なかったと思います。僕の方が我儘で自分勝手だったんです」
互いに頭を上げると視線が合い、二人からは笑みが溢れた。
抱えていた荷を下ろす事が出来て、心が楽になった気がした。
「お前は一姉様に似ている」
蓮は目を伏せながら否定するように首を横に振った。
「一姉様とお前は良い意味でも、悪い意味で頑固だ。何でも一人で抱えようとする。でも、自分が決めた事を最後までやり遂げることが出来る」
「それは、皆さんが助けてくれたからです。今回も一蓮さんのお陰で一諾さんを保護できたわけですから」
「それも才能だ。お前の為に力を貸したいと思える事は簡単な事ではない。お前も一姉様も特別な力を持っているんだ」
七杏は茶で喉を潤した。
蓮も同様に茶を飲む。
「実は叔母様が私の所に来て謝罪してきたのだ」
蓮は黙って話を聞いたが、七杏は続きを話さない。
「それで、なんて返事をしたんですか?」
痺れを切らした蓮が先に問いかけた。
「許す…というのは、お門違いなのでしょうね」
七杏がクスッと微笑む。
その表情に蓮の心は震えた。
「全ての真相を聞いたから、もう何とも思っていないわ。元々、私達は家族だった。宇とか江とかそんな物があるから、いけないの。これからも家族として共に戦ってくれるなら、それで良い」
言葉に詰まった蓮だったが、七杏につられて笑顔になった。
「七杏さんも特別だと思います。少なくとも僕は七杏さんの力になりたい。僕が帰るその日まで共に歩ませて下さい」
嬉しい反面、時間の制約がある事に寂しさを覚えてしまった。
しかし、七杏はグッと我慢して自分の本心を飲み込んだ。
「あぁ、頼む。それに私はお前の心を守ってやると言ったからな」
蓮は黙って杯に口をつけ、茶を飲み干して立ち上がった。
「お話できて良かった。では僕はこれで」
これ以上、一人の時間を邪魔するのはどうかと考え、立ち去ろうした。
しかし、七杏は乗り出す勢いで蓮の腕を掴んだ。
「まだここに居てくれて構わない。もう少し話したい」
伏せ目がちにおずおずと告げる彼女を見て、蓮は黙って椅子に腰かけ直した。
「蓮がどんな風に叔母様との日々を過ごしたのか聞きたい」
蓮は七杏が一諾に興味を持ってくれたと喜んで話し始めた。
対する七杏は二人だけの時間を楽しんだ。
少しズレている二人の会話は侍女が昼食の時間を告げるまで続いた。




