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第42話 一諾のやり方

 蓮が帰還して数日が経ち、五虎は一諾を自室に招いていた。

 理由は大きく二つある。


 一つ目は元宇軍領の政務について。

 一諾の政務は完璧で一蓮達の付け入る隙はなかった。

 町民は一蓮の言う事を聞かず、暴動が起きるのも時間の問題だった。

 これを収める為には一諾にこれまで同様の政務を行わせるしかないと判断した。

 まるでこうなる事が分かりきっていたかのように、一諾は得意げに鼻を鳴らして了承した。



 そして二つ目は江軍領の政務について。

 一蓮と一諾はいがみ合っているが、五虎は叔母の才を認めており、嫌っているわけではない。

 寧ろ好んでいる。

 一蓮に隠れて相談事を持ちかけた事もあるくらいだ。



「相変わらず無駄が多いの」


 適当にパラパラと書物に目を通していく一諾は朱色の墨汁に浸した筆で特定の箇所にバツ印をつけた。



「五虎を悩ますのはこの問題だな」


 バツ印のついた箇所を確認していき、五虎は溜め息をついた。

 それは降参の意味と感銘の意味を込めた溜め息だった。



「財政問題は簡単だろう。税を上げれば良い」


 当然のような口ぶりで話を進めようとする一諾を五虎は必死に止めた。



「それは姉さんが許しません」


「ならば、妾の名を使えば良い」


 しかし、一諾はまたしても当然のように話を続けた。



「いつの世も、どこの国も悪役が必要じゃろう?」


 一諾が書物を捲ったり閉じたり弄んでいると、勢いよく扉が開き、一蓮が室内にズカズカ入って来た。



「五虎、あの子を知らないかな?」


 何食わぬ顔で一諾の肩越しに書類を覗き込んだ一蓮は話の内容をおおよそ把握した。



「確かに財政には困っているかな」


「何故、増税しない?」


「え?それだと皆が困るかな。誰かが困らないといけないなら、私が困るかな」


 キョトンとした表情で即答した一蓮に対して、一諾は目をパチクリさせて人目も憚らず笑った。

 こんなにも人前で笑ったのは久々だった。



「お前は相変わらずだな。五虎が苦労する理由が良く分かったぞ。ここはお前の領地じゃ。好きにしろ。五虎も我儘な姉に付き合ってやれ」


 話が一段落すると室内にノック音が響き、五虎は入室を許可した。

 丁寧に入室した蓮は真っ先に一諾の元へ向い、細長い筒を手渡した。



「ありがとう小僧。一蓮がお前に話があるらしい。聞いてやってくれ」


 勝ち誇った顔で一蓮を一瞥し、蓮の背中を押す。



「七日後に大切な話をするかな。それまでに私、ニ猫、四蘭、五虎、七杏、そして一諾と話すかな」


 その真剣な眼差しに気圧された蓮は拒否出来なかった。



 こうして一諾は無事に江軍所属となり、これまで通り宇軍領の領主に返り咲いた。

 その姿に以前のような刺々しさはなく、美しい笑顔を見せる女性へと変貌を遂げていた。



 そして、蓮が苦手とする他者との交流という試練が幕を開けた。

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