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第41話 褒美

 突然の登場に驚きを隠せない蓮を可笑しそうに見つめる一蓮。

 彼女は政務を五虎に、軍務をニ猫に任せてこの地に赴いた。



「…どうして、ここに……?」


「ここは私の納める地かな。情報は全て入ってくるかな」


 ゴクンと生唾を飲む音が聞こえてしまうのではないかと心配になった。



「さぁ、帰るかな。君が居ないと皆、本調子じゃなくてパッとしないかな」


 蓮は嬉しさと気まずさの入り混じった感情に呑まれ、どのような表情になっているのか分からなかった。



「僕にとっては有難いお話ですが…」


 チラリと一諾の方を見ると一蓮は察したように頷いた。



「連れて来ていいかな。一緒に住むのが難しければ、離れを使っても良いかな」


 予想外の返答に目を丸くした蓮の顔が可笑しくて、一蓮はクスクスと笑い始めた。

 蓮にとっては理想的な展開だが、あまりにもスムーズ過ぎて思考が追いつかない。



 それからはあっという間で、一蓮が用意した馬車に乗せられた蓮と一諾は江軍の城に連れ帰られた。

 一諾を担いで移動した蓮にとっては相当な距離を歩いたつもりだったが、馬車で移動するとなんて事はない距離で、自分が出来る事の小ささを認識させられた。



 馬車から降りた蓮は懐かしさのあまり息を呑んだ。

 今更ながら、どんな顔で皆に会えば良いのか分からなかった。



 一蓮に続き、重い足取りで歩く蓮の後ろに一諾が続いた。

 玉座の間に着くと控えていた兵士が扉を開き、その隙間からは懐かしい顔がチラリと見えた。



「今、戻ったかな」


 その一言で一同は静まり返り、その存在の大きさを知らしめる。



「おかえりなさい。そして、ようこそ叔母様」


「た、ただいま戻りました。勝手な事をしてすみませんでした」


 玉座に座る一蓮に笑顔はなく、声も冷酷そのものだった。

 自分を迎えに来た人と同一人物なのか疑う程に一蓮はオンオフがはっきりしている。

 蓮は冷や汗を流しながら答えた。



「先の戦での功績に見合う褒美を取らせる。君は何を望むのかな?」


 淡々と紡がれる言葉には棘が無く、一蓮の表情からも企みは無いと思えた。

 今できる事は、自分の直感と一蓮を信じて素直な気持ちを伝える事だけだった。



「元宇軍大将の保護を。居住食の約束を望みます」


 誰にも気付かれる事なく、一蓮は微笑んでいた。

 家族以外の人間とも言葉を交わさずに意思疎通が可能なのだと確信した瞬間だった。



「よろしい。約束しましょう。皆も良いかな」


 この語尾は疑問形ではなく、命令形だった。

 王であり姉の命令には誰も反論しない。

 しかし、七杏だけはやるせない表情で、蓮とは視線を合わせないようにしていた。

 その後ろではニ猫が腕を組んでおり、七杏を心配そうに眺めている。



 蓮の隣に立つ一諾は黙って事の顛末を見守るだけで何も発言しようとしない。

 まるで他人事のように一蓮と蓮のやり取りを眺めていた。



「疲れているかな。今日は早く休むかな」


「はい!」


 久々に見る蓮の笑顔と久々に聞く声で少し場が和んだ。



「良かったですね、一諾さん!」


 しかし、それは束の間の出来事で玉座の間に雷が落ちたかのような衝撃が走った。

 ここは屋内で屋根もある。

 雷が落ちる筈はないが、それ程までに衝撃的な展開が目の前で繰り広げられているのだ。



「…あれ……?」


 一同からとてつもない殺気を向けられていることに気付いた蓮は小首を傾げながら一諾と顔を見合わせた。

 一諾は蓮のように鈍感ではなく、彼女達の身に何が起こっているのか察する事が出来る人物だ。



「礼を言うぞ、一蓮。それで、妾の部屋はどこだ?部屋が無ければ小僧と同衾でも構わんが?」


 聞き慣れない言葉の意味が分からず、何の気なしに一蓮に視線を向けると、そこには額に青筋を浮かべた王が肘置きを握り締めていた。

 今にも砕け散りそうな肘置きを見て一蓮の異常に気付いたが、かけるべき言葉は見つからなかった。



「そんな訳…ないッ!かなッ!」


 一蓮の怒りが爆発する前に五虎の提案により、一諾は用意された部屋へ案内された。




「それで叔母と過ごしてどうだったかな?」


「自分の無力さを痛感するだけでした。この世界では僕一人で何も出来ない」


「君は私達の元へ来てからずっと一人じゃない筈かな。それなのに一人だと思うならそれは周りが見えていないのか、見ようとしないのか…どっちかな」


 ズキッと胸が痛んだ。



「何をそんなに怖がってるのよ」


 ぶっきらぼうな四蘭だが、その言葉の中にはしっかりと優しさが込められている。



「分かりません。でも、奪われたくないんです」


 目を伏せる蓮からは弱々しさしか感じられなかった。

 これは蓮のトラウマである。

 過去に何か明確な出来事があった記憶はないが、凰花家の者や一蓮達と関わると不意に訪れる恐怖感や虚無感といった負の感情に押し潰されそうになるのだ。

 これは義母ははである凰花さくらにも吐露した事のない蓮の秘密。

 異世界の住人である一蓮達だからこそ、話す事が出来たのだった。



「今日から、今までよりも深く私達と関わりなさい。それが出来るまで、一人で私の元を離れる事は許さない。いいかな」


 一蓮からの命令をしっかりと受け取った蓮は十日振りに自室へ赴いた。

 久々に熟睡が出来たのは、いつもの寝台だからか、それとも弱みを吐き出せたからか。

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