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第34話 絆の片鱗

 江軍の城へ帰還した蓮は玉座の間を目指した。

 既にいつもの面々が揃っており、扉が開かれると一同の視線は蓮に集まった。



「おかえり。首尾はどうかな?」


 玉座に座る一蓮の前まで進んだ蓮は頭を下げ、満面の笑みで応えた。



「それは何よりです。ところで、阿の王には会いましたか?」


 五虎からの問い掛けに対して素直に答えるべきか悩んだが、ありのままを答えた。



「特に何も聞かれなかったので軍の事は答えていません」


 安堵の息を漏らす四蘭と七杏であったが、二猫は相変わらず不信感を抱いていた。



「戦になった時、我が軍を止めてみろ。とだけ言われました」


「へぇ。あの鏡華がそこまで私達を買っていたなんてね…かな」


 舌舐めずりする一蓮からは興奮が見て取れた。

 案の定、語尾を付け忘れかけた事に気付き、申し訳程度に付け加える様子が可笑しかった。



「姉貴、一ついいか?」


 いつもの笑顔を貼り付け直した一蓮は顎を引き、弟の発言を許可した。



「こいつはあくまでも客人だ。自由気ままに他の領地に向かわせて良いのかよ。こいつは俺らの情報を知り過ぎているぞ。今回も阿の間者になって無いっつぅ確証はねぇ」


 二猫は蓮の隣に移動し、横顔を睨みながら上申する。

 そんな二人を見下ろしながら、一蓮は小さく溜め息をついた。

 これはいずれ誰かの口から出るであろう問題だと認めており、それが今日だったというだけだ。



「ここではっきりさせようかな」


 姉妹達を見渡し、蓮に向き直った一蓮は優しく冷たく語りかけるように告げた。



「私達の仲間になるのかな?それとも敵になるのかな?」


 鋭い視線が突き刺さり、息が詰まる感覚だったが、それでも蓮は一蓮から視線を逸らさなかった。

 答えは決まっているがなかなか言葉が出てこない。

 蓮はその生い立ちから、他人と距離を取るようになってしまった。

 決して踏み込まず、踏み込ませない。

 何事にも無関心を装い、仮初めの笑顔を貼り付けて応対する。

 一蓮の問い掛けに答える為には殻を破る必要があった。



 なかなか一歩を踏み出せない今の自分の姿を見たら、義母ははは何と言うだろうか、どんな表情を浮かべるだろうか。

 様々な事を考えていると、不意に誰かに背中を押されたように、足が一歩前に出た。

 それはあからさまに不自然であり、蓮も怪訝な顔をして前のめりになった体勢を立て直した。



「僕は貴女達の仲間だ」


 そこには確固たる覚悟を目に宿した蓮が堂々と立っていた。



 一蓮は満面の笑みを浮かべ、二猫はガシッと肩を組み不敵な笑みを向けた。

 四蘭は呆れたように息を吐き、五虎はボーッと眺め、七杏はまたしても安堵の吐息を漏らしていた。

 そんな中で蓮も自然と笑みが溢れていた。



「僕は凰花 椿に会って新しい力を得るきっかけを得ました。これから、それを使える物へと昇華させます」


 絆の片鱗を見せた一同は誰も合図をしていないにも関わらず一蓮を見上げていた。



「よし!蓮も戻ったし、宇軍をぶっ潰しに行こうかな」


 立ち上がり、高らかに宣言した一蓮に同調するように兄妹達は右腕を突き上げていた。

 しかし、ただ一人、五虎だけは控えめだった。

 それぞれが自分の成すべき事を成す為に玉座の間を退室し、一蓮、七杏、蓮だけが残った。



「これが僕を暗闇から救ってくれました」


 琥珀色の首飾りを手繰り寄せ、首から外して七杏に返そうとしたが、やんわりと拒否されてしまった。



「それは蓮に持っておいて欲しい。これからも一姉様と私がお前を守る。だから蓮には軍を守って欲しい」


 七杏からの申し出を素直に受け取った蓮は首飾りを付け直し、大切に服の中へと収めた。



「強大な力は生半可な覚悟で得られるものではないかな。どんなに時間がかかっても良いから、納得できるまで挑戦するかな」


 和やかな表情の一蓮を見返し、しっかりと頷く。



「一つ伝えておきたい事があります。この前の戦は我夏葉将軍と皇帝を阿軍が保護する形で収束しましたが、皇帝は何者かに操られていたようです」


「あっ、やっぱりあの子が皇帝だったかな。私に嘘をついたのかな?」


 ゴゴゴゴと音が聞こえてきそうなオーラを纏い、ただ口角を吊り上げただけの笑顔を貼り付けた一蓮が腕を組んだ。

 肩を落とした蓮は謝り続け、七杏の助け舟を得て、逸れた話を正した。



「僕も皇帝を操っていた人物に会いましたが、その場では確証がなかったので黙っていました。すみません」


 形容し難い表情の姉妹を見回し、一呼吸置いてから続ける。



「もう一つ黙っていた事があります。僕のこの赤い眼についてです」


 実際に"乙女解放"を発動しながら、話を進める事にした。



「僕達の眼にはもう一段階上の能力があります。その眼を使って、宮中に居た人物は皇帝を操っていたのです」


「では、その能力は蓮にもあるのか?」


「僕にはまだありません」


 先程の一蓮の顔を思い出し、嘘はつかなかったが、椿姫の話は出さなかった。

 この場で椿姫が幻術を使えるという情報を与えると厄介になると判断したからだ。



「で、君がさっき言ってた新しい力はその事かな?」


「はい。でも、僕はその力が使えるようになるのか分かりません」


「…四姉様は操られていたのかしら」


 七杏が心配そうに蓮を見つめる。



「僕はそうだと思っています」


「今はどうなの?」


「それは分かりません。今のところは様子見で良いかと思います。とにかく僕は力を得られるようにします。また誰か操られるような事があれば僕が何とかします」


「分かったかな。君を信じるかな」


 一蓮からのウインクに笑顔を返した蓮は玉座の間を後にした。

 丁寧に扉を閉めた蓮を見送り、残った姉妹は顔を見合わせた。



「一姉様は本当に蓮を信じているの?」


「勿論かな!男の子は少しくらいやんちゃな方が魅力的かな」


 二人も成すべき事を成す為に動き出すのだった。

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