第33話 王への謁見
翌朝、目覚めた蓮は見覚えのない部屋に寝かされている事に気付き、警戒しつつ起き上がった。
「おはよう。ここは阿軍の城よ。これは返すから、挨拶に行くわよ」
椅子に腰掛け、書物を読んでいた椿姫は蓮の愛刀を投げ渡した。
「玉簾!ありがとうございます。えっと…」
「昨日、鳳凰眼を開眼して倒れた貴方をここへ運んだ。礼はしないとね」
書物を閉じた椿姫は部屋の扉を開けて、出るように促した。
鞭刀『玉簾』をいつものように左腰に携えた蓮は椿姫の後ろに続いた。
「これは"愛"の反動よ。明日には戻るわ」
怪訝な視線を感じた椿姫は先に説明を始めたが蓮からの返答はなく、納得したのだと解釈して歩き続けた。
大きな扉の前に立ち、深呼吸をしてから蓮は扉の向こうへ進んだ。
「おはよう、鏡華。昨日の子を連れてきたわ」
「そう。名を聞こうかしら」
一蓮とは異なる覇気を纏う阿軍の王を前にしても蓮は怯まずに名乗り、礼を述べた。
その真っ直ぐな視線を受け止めた鏡華は不敵な笑みを浮かべた後に厳しい表情を蓮に向けた。
「少し話をしましょうか、もう一人の天の住人。貴方には私達はどう映っているのかしら?」
「優れた将達とそれらを纏める王がいる軍。身内で固める江軍とは異なる力を持つ勢力だと思っています」
「なるほどね。では、今、戦を行えば勝つのはどちらかしら?」
蓮は椿姫と目を合わせたが、そっぽを向かれてしまった。
「貴女方だと思います」
その言葉を聞いても鏡華の厳しい表情は変わらない。
続きを催促されていると察した蓮は言葉を続けた。
「軍の大きさを考慮すると結果は自ずと出るでしょう。それに、今の僕では天使も悪魔も止められません」
鏡華の厳しい表情が崩れ、愉快そうに笑い始めた。
「だそうよ椿姫。貴女の身内は面白いわね。凰花 蓮。その名は覚えておきましょう。次に戦場で会った時は我が軍を止められるようにしておきなさい。その方が面白いでしょ」
蓮は感じた事のない興奮に見舞われた。
これ程までに自信を持つ相手を打ちのめす事が出来れば、さぞ気持ち良いのだろうな、と考えてしまった。
蓮はこのまま帰還するという事で椿姫も見送りの為に踵を返した。
小さくなる二人の背中を眺めながら鏡華は笑顔を崩した。
「あんな子が江軍に居たなんてね。椿姫が負けるとは思わないけれど、油断してたら首を持って行かれるわね。貴女も…私も…」
その背中に囁く様に語りかける鏡華はゆっくりと閉じる扉を眺め続けるのだった。
「じゃあ、気を付けて帰るのよ」
先日と異なり、親しげに手を振る椿姫に頭を下げた蓮も彼或いは彼女に対する態度が変わっており、すっきりとした顔だった。
「次に会う時までに"眼"を獲得出来ていると良いわね」
「何故、僕が凰花の眼を持っていないと分かるのですか!?」
「なんとなくね。それから、一蓮達と仲良くしておきなさい。きっと助けてくれるわよ」
蓮の開いた口からは何も発せられなかった。
不審に首を傾げる椿姫に気付き、何か言葉を捻り出すように努める。
「…男なのに、女言葉がお上手ですね」
「でしょ!今もどこかで鏡華が見ているのよ。この姿で男言葉だと怒るの。すっごく怖いんだから!」
咄嗟に口から出た蓮の皮肉は虚空の彼方に消え去り、キョロキョロと辺りを見渡す椿姫はどこか誇らしげだった。
「これから先は誰も傷つけさせない。一蓮達を頼むわよ」
「分かりました。…この世界を救ったら、少しでも良いので必ず鈴蘭さんの元に戻って下さい。お願いします」
「…考えておくわ」
小さくなっていく蓮を見ながら、椿姫は溜め息をついた。
ここまで歴史が変わると以前の異世界では今の時期に自分が何をしていたのか分からなくなっていた。
成り行きに任せるしかないと改めて腹を括り、鏡華達を守る為の行動を優先すると心に決めた。




