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第31話 共犯者

 蓮の前には大きな門が待ち構えていた。

 門番の問いかけに対して誠実に受け答えをする事で簡単に町の中へ入る事が出来た。

 閉鎖的な江軍の町と異なり、人の行き来が激しい町のようだが、しっかりと管理されているようだった。

 江軍の町では四蘭を筆頭に警備を担当しているが、阿軍の町はそこまで畏まっていない印象を受けた。

 単純に兵力が足りていない江軍に警備部隊という新しい部署を作る余裕がないのかもしれない。

 今更ながら、いかに江軍が逼迫しているのか気付いたのだった。



 町を散策すると大きな城が見えてきた。この城も一蓮の城よりも立派である。

 更に進むと人通りが少なくなり、森へと続く道が見えてきた。

 蓮が辿り着いた森は江軍の森と似ているが、また雰囲気の異なる場所だった。

 花を眺めているとガサッと大袈裟に音が鳴り、そちらへ注意が向いた。



「久しぶりだな、凰花の人間」


 大きな岩の上に片膝を立てて座る少年がそこに居た。

 服装はラフなものであり、素顔を隠していない。

 つまり白い悪魔としてではなく、凰花 椿としてこの場に姿を現わしたのだ。

 更に目を惹くのは水仙の絵が描かれた赤い傘をさしている事だ。



「凰花 椿。手間が省けました」


 椿は岩から飛び降り、傘を持たない右手を腰の後ろに回して愛刀の篝水仙を鞘ごと掴むと目の前に突き出した。

 蓮もそれに倣い、左腰にさしている鞭刀『玉簾』を突き出した。

 ニカッと笑う椿と同時に無表情な蓮も刀を地面に置く。



「この場では親戚として接する事を誓う」


「分かりました。僕は凰花 蓮。凰花家二代目当主、凰花さくらの子です」


 椿は一瞬だけ躊躇ったが、それでもはっきりと答えた。



「八代目当主、凰花 鈴蘭の子。凰花 椿だ」


 二人は改めて自己紹介をして腹を割って話す決意を固めた。



「まずは、この世界について知ってもらう必要がある。お前はどこまで知っている?」


 蓮は返答出来なかった。

 ここがどこなのかは蓮にとってどうでも良い事であり、目の前の少年が居る事だけが重要なのだ。



「元々、この世界は五つの軍に分かれていたが、勝ち残った軍で同盟を組む所までこぎつけた。でも、今は時間が巻き戻っている。そして誰も違和感を感じていなかった」


 それは蓮にとっても驚くべき内容だったが、この話が本当なら一蓮達が凰花 椿を知らない事も納得できる。



「俺はやり過ぎだと思っている。お前をこの世界に連れて来るだけなら、俺が過ごした時間軸で良かった筈だ。必ず時間を戻した理由が他にある」


 更に椿は雷夏葉が唯一以前の異世界の記憶を持っている事と何者かに操られていた事を告げ、蓮が思考を続けている間に傘を折り畳んだ。



「やっぱり悪魔が天使」


「そういう事になるわね。これは私に対しての"愛"よ」


 椿から椿姫へと変わる瞬間を目の当たりにした蓮はそれが神の能力チカラであると確信した。



「この世界に来た時は焦ったと同時に喜んだわ。後からの鳳凰眼によるものだと教えて貰ったけどね」


 腰まで伸びる黒髪を片手で撫でる椿姫の姿が見覚えのある女性と重なった。



「じゃあ、始めましょうか。"梦幻鳳凰眼"で私が知ってる全てを貴方に見せるわ」


 一歩二歩と近づくが、蓮に警戒する様子はない。

 つい先程まで男だったと思えない程、整った顔立ちはやはり見覚えのある顔だった。



「あら、私を疑わないの?」


「今は親戚ですから、貴女を信じます」


 そして、椿姫の両眼には憎しみを孕む、怪しい模様が浮かび上がった。



「ふふん。おやすみなさい、凰花 蓮」


 ジッと見つめる蓮に幻術をかけ、倒れ込まないように支えた。

 その間、たったの五秒。

 蓮は五秒間だけ意識を失ったが、その短い時間で椿姫の知る情報をあたかも自分が見てきたかのように追体験させられたのである。

 これが椿姫の辿り着いたもう一つの"梦幻鳳凰眼"の使い方だ。



「他人を操る能力を持つ鳳凰眼。以前の世界には存在しなかったわ。あいつが何者なのか、そして何の目的があるのか」


 椿のお陰で情報を共有でき、同時に"梦幻鳳凰眼"の能力も知る事もできた。

 蓮にとっては思わぬ収穫の筈だが、そんな事を思う余裕はなかった。

 この能力は神の能力チカラであり、人の過去を他者に見せる事は人間には不可能だ。

 椿の能力チカラに恐怖したが、更に恐ろしい事は自分も同様に鳳凰眼を持つ者であると分かっている事だった。

 いずれは人を捨てるのだと直感してしまった。



「警戒しなさい。四蘭は操られていて、空璃に矢を放った可能性が高いわ。ちょっと、聞いてるの?」


 いかにも不機嫌な少女が自分の頬をペチペチと叩いている事に気付いた。



「…その方が有難いです。四蘭さんはあんな事をする人じゃないと信じたい」


「では、あの黒ローブは誰なのか。私は凰花家を離れているけれど、貴方は違うのでしょう?心当たりはないの?」


「僕も凰花の人間になって長くないですし、鳳凰眼についても最近知りました。なので心当たりはありません」


「…まぁ良いわ。私がこんなにも情報を提供したのだから、貴方も何かよこしなさい」


 蓮の発言は非常に気になるが、それはこれからの質問で答えが出ると思い、椿姫は気に留めなかった。

 蓮は拳を握り、椿姫へと向き直る。



「僕は、貴女を現実世界に連れ戻す為にここに来ました」


「何故?」


「鈴蘭さんのお気持ちを知って欲しいのです。その上で鈴蘭さんと話していただきたい」


 あからさまに椿姫の顔は引き攣っていた。



 蓮は鈴蘭の言葉は聞いたが、椿姫の言葉は聞いていない。

 男だからという理由で凰花家を追い出されたという過去に囚われる椿姫の憎悪は、他人が易々と理解できるものではなかった。



「まず、貴方は何者なのかしら。さっき"凰花になった"と言っていたけれど?」


 蓮はこれまでの経緯を話し、次期当主候補の一人であるとその身分を語った。

 表情一つ変えなかった椿姫は我慢の限界を迎えたように笑い始めた。

 その笑みは徐々に大きくなり、大口を開けて豪快に笑った。



「お前の底が知れるというものだわ。次期当主候補の"男"に何を言われても一切響かないわ」


 笑い涙を拭いながら吐き捨てる椿姫に対して、蓮は苦虫を噛み締めた様な表情となっていた。



「では、あの女の言い分を聞かせなさい」


「それは直接聞かないと、とても軽い言葉になってしまいます」


「話にならないわ。それにどうやってこの世界から現実世界に戻るのかしら?」


 蓮は無意識に視線を晒していた。

 今の椿姫はそのような隙も見逃さない。



「ふふん。私はともかく、貴方は現実世界に戻れないと困るでしょう?次期当主候補様なのだから」


 たっぷりと皮肉を込めた笑みが蓮の心を抉った。



「さぁ、私の手を取りなさい。貴方が現実世界に戻る為にはこの世界を救うしかない。私が手助けしてあげるわ」


 俯き、黙りこくっていた蓮は差し出された手を取る事を躊躇った。

 しかし、この世界で頼れる人物は目の前の少女しか居ない。

 満面の笑みを浮かべるその少女は蓮にとっても天使だった。

 この手を取ると対等ではなくなってしまう。

 しかし、椿姫を連れ帰る為には椿姫の力を借りるしかないのも事実だ。

 自分の無力さと無鉄砲さを猛省しつつ、悔しさと情けなさの入り混じった表情のまま、椿姫の手を取った。



「これから私達は共犯者ね。この事は誰にも内緒よ。もちろん一蓮にもね」


「…一蓮さんの名前」


「今はその名を呼ぶ事は許されないけれど、きっともう一度呼んでみせる」


 椿姫の決意に満ちた眼差しを見る限り、嘘をついていない事は明白である。

 蓮にとって彼或いは彼女を現実世界に連れ帰るという目的は変わらないが、彼或いは彼女が一蓮の名を呼ぶ為の手助けに全力を尽くそうと考えを改めた瞬間だった。

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