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第29話 心の壁

                  ◇


 凰花 蓮は一蓮と出会った森の奥で鞭刀『玉簾』を巧みに操り、技の開発を行っていた。

 納得のいかない表情のまま刀を鞘に収め、紅い眼を閉じて息を吐く。

 森の深奥から開いた場所へ歩いて行くと墓石を見上げる人影があった。



「君もよくここに居るかな」


「空気も水も綺麗で一番好きな場所です。一蓮さんもよくここに来ますね」


「…私は母にすがっているのかもしれない」


 墓石を優しく撫でる一蓮を眺めながら蓮はそっと左の瞼に触れた。



「それなら僕も同じです」


 静寂が訪れ、小鳥のさえずりだけが森に木霊した。



「そろそろ、阿軍領に行きます」


 蓮は一時的に江軍に身を寄せているだけで軍に所属している訳ではない。

 しかし、世話になっている人に外出許可を取る事は最低限の義務であると思っていた。

 一瞬だけムッとした一蓮はいつもの笑顔を作り直し、承諾した。



 城へ戻り、中庭へと向かって行くと背後から名を呼ばれた。



「どうした、暇なの?」


「今日は特にする事がありません。五虎さんは部屋に篭りきりで、ニ猫さんはどこかに消えました」


「そうか。こちらが請う形で我が軍に身を置いて貰っているのだから、何もする事がなくて良いのだ」


 ダメ人間を量産できそうな文言を真に受ける事なく綺麗に聞き流す。

 そんな蓮に心の壁を感じつつ、七杏は中庭に置かれた机と椅子の方を指差し、お茶会を提案した。



「朝は何をしていたの?」


「剣技の練習です。その後は一蓮さんとご飯を食べに行きました」


「蓮はいつも一姉様と一緒ね」


「確かに他の人よりは一緒にいる時間が多い気がします。でも、いつもではありませんよ」


「一姉様とはどんな話をするの?」


「後日、阿軍領に行きたいと相談をしました」


「そうか。蓮の目的は阿にいる天の住人だったか?」


「そうです。でも安心して下さい。江軍の情報は漏らしませんから」


 淡々と質問に答える蓮にめげず七杏は会話を弾ませようと努めたが、時間切れだった。

 この後、予定がありニ猫が七杏を呼びに来たのだ。

 七杏はもう少し話したい気持ちを隠さなかったが、蓮は一言だけを残し、立ち去ってしまった。



「拗ねるんじゃねぇよ。あんまり、あいつに入れ込まない方が良い」


「一姉様は仲良くしてるのに!」


「姉貴には考えがあんだよ。ほれ、視察行くぞ」


 ニ猫は蓮を快く思っていない。

 それは誰しもが気付いている事であり、蓮も極力関わらないようにしていた。



 数日後、借りた馬の手綱を受け取り、見送りに来ていた一蓮に礼をしていると七杏が走ってきた。



「蓮!これを持って行け」


 息を切らしながら、手渡されたのは琥珀色の玉と赤い羽のついた首飾りだった。



「これって」


「一姉様からの頂き物です。私はこれがあったから、皆と離れても平気でした。だから蓮もこれを持って行くと良い。ダメですか一姉様?」


 微笑んだ一蓮は首を横に振った。

 手早く首飾りを付けた蓮の胸元でキラリと琥珀色が輝いた。



「いってらっしゃい」


「…行ってきます」


 小さくなる蓮の背中を眺めている七杏の隣で満足気な一蓮は先程と変わらず微笑んでいた。



「随分、気に入っているかな」


「ち、違います!一人で敵地に行くのは不安ではないですか。一姉様が傍に居ると思うと心強いと思って…」


「私だけじゃなく、七杏も傍に居るって思えるかな」


 隣で顔を赤らめる妹を横目に一蓮は伸びをして城へと歩き始めた。

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