第27話 悪魔と天使の正体
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一方その頃、蓮は復興作業を進める一蓮達と合流していた。
「おかえりーかな。それで探し人はどうなったのかな?」
「我夏葉将軍と子供を連れていた少女がそうでした。その事を踏まえてお話があります。また後日、お時間を下さい。僕にも何か手伝える事はありませんか?」
蓮も領内が落ち着くまで復興作業に従事したのだった。
それなら数日、江軍領地の城へ帰還した一同は蓮によって召集をかけられていた。
「凰花 椿についての報告です。僕の探していた人物は阿軍の白い悪魔でした。そして黒翼の天使でもあります」
分かりきっていた事だが、一蓮を含め姉妹達からは驚愕の声が上がった。
「凰花 椿は男ですが、太陽の光を浴びることで女になれるようです」
「…それが事実なら悪魔が全身を隠す事に納得できます」
否定する声も聞こえる中、五虎だけは理解が早かった。
流石、軍師と言ったところである。
「悪魔と天使は同時に現れないって聞いた事があるかな。先の戦でも悪魔の姿は見ていないかな」
「なんでそんな奇天烈な事が起きてるのよ」
四蘭は納得できず、蓮に詰め寄った。
蓮は言葉を詰まらせたが、答えは一つしかないと考えている。
しかし、それを伝えてもやはり納得は出来ないだろう。
体質という曖昧かつ便利な言葉を使い、話を区切った蓮は疑問を晴らす為に話題を変えた。
「四蘭さんは何故、阿軍の将に矢を放ったのですか?」
一同が黙り、視線が四蘭へと集まる。
重苦しい空気の中、四蘭は視線を泳がせながらも真剣に答えた。
「正直、覚えてないのよ。何故、持ち場を離れてあの場に居たのか。本当に彼女を狙ったのか。それとも皇帝軍の兵を狙ったのか。全く分からないのよ」
必死に訴えるその表情と声から四蘭が嘘をついているようには見えない。
それは皆も同意見だった。
「四蘭さんを責めたい訳ではありません。ただ、凰花 椿はそれを根に持っています。確実に阿軍との関係は悪化すると思います」
実際にあの場面で蓮が駆けつけていなければ、四蘭は殺されていたかもしれない。
一蓮達は現場を見ていないが、四蘭本人や兵達がそれを証明している。
「それは仕方ないかな」
パンッと手を叩いた音が室内に響く。辛気臭い事を嫌う一蓮らしい行動だった。
「それよりも君から見て皇帝陛下は悪人だったのかな?」
「一姉様、そんな事は聞くまでもありません。悪人だからこそ、蓮が手を下したのでしょう」
七杏の言葉を無視し、ジッと蓮だけを見つめる一蓮は早く答えろと催促するように嫌らしく微笑んだ。
「皇帝は小さな少年でした。皆に守られながら政務を行っていたのだと思います。しかし、僕が見た皇帝の目に生気はなく、一言も発していませんでした。言うなれば…人質」
一蓮以外の者達は蓮の言葉を理解出来ていなかった。
しかし、勘の良い者は気付いたようだ。
「阿の姫が連れていた子が現皇帝という事かな」
今の一蓮の発言は疑問系ではなかった。
沈黙を返答とした蓮は叱られる覚悟だったが、そうはならなかった。
あの短期間で凰花 椿の意図を汲み取り、口裏を合わせた事を称賛された。
「では、我夏葉将軍達は皇帝の為にも負けるわけにはいかなかった…という事でしょうか?」
「皇帝軍にとっては阿軍の悪魔と天使は英雄だな」
二猫がつまらなさそうに言い放つ。
それもまた正しい事だと思えた。
「それから我夏葉将軍は凰花 椿を知っていたのかもしれません」
「繋がってるって事かよ!?」
身を乗り出す二猫を制しながら、蓮は話を続ける。
「いえ、そんな感じでは…。何というか、昔から知っていたかのような、懐かしさのような、そんな雰囲気でした」
この言葉を受けて、一同は突然の頭痛に襲われた。
蓮だけは頭痛がなく、心配そうにそれぞれの顔を見回した。
「何かな、この感覚。頭が割れそうかな」
一蓮に同意する姉妹達も暫くすると頭痛が治り、落ち着いて深呼吸を繰り返した。
蓮は漸く、この世界の違和感に気付いた。
ここが凰花 椿の生きた世界なら、一蓮達は彼を知っていて当然な筈だ。
しかし、誰も知らない。
唯一、我夏葉だけが知っていた。否。覚えていた。
そのような考えに至った蓮は右手を顎に当てて更に考えを巡らせる。
「私達はもう良いかな。君の方こそ難しい顔して大丈夫かな?」
「はい。話を戻しますが、分からない事があまりにも多過ぎるので、もう一度、凰花 椿と接触したいと思います」
「そう…」
たった一言だけを漏らした一蓮の事が気がかりだったが、この日は解散となった。
自室に戻り、寝台に寝転ぶと室内にノック音が響いた。
入室を促すと扉を開けたのは七杏だった。
「今回も大した活躍であったと聞いた。ご苦労だったな」
労いの言葉をかける為にわざわざ訪問したわけではない事はすぐに分かった。
それ程までに七杏は隠し事が下手である。
気まずそうに先程の話を掘り返し始めた七杏を咎める事なく、続きを促した。
「私は現場を見てはいない。聞いた話だけでの見解だが、四姉様は狙った的は外さない。それに共闘している他軍の将を射るような真似もしないと私は思う」
「僕もそう思っています。しかし、それでは四蘭さんは何故、弓を引いたのか腑に落ちません」
「もし。もしだぞ!誰かに操られているとしたら…どうだ?」
七杏の言葉を聞き、蓮は逸らしていた目を向けた。
男から女へ、女から男へ変化する人間が居るくらいだ。
何があっても不思議ではない。
「七杏さん、僕は今回の一件で阿軍からの報復があると予想しています。それに備える為に色々と相談させて下さい」
必要以上に凰花 椿の話をしたくない蓮は強引に話を切り上げ、七杏に退室を促した。
蓮の胸には言葉に表せない不安感が渦まくのだった。




