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第26話 治せない者と治せる者

 以前の世界と異なり九条 幾斗が敵将を切り捨てた為、伊軍ではなく、阿軍で我夏葉と幼い皇帝を保護する事に決めた椿姫は鏡華にどのような説明をするか考えていた。



「おかえりなさい、椿姫。今日は拾い物が多いわね」


 一息着く間も無く、皮肉を交えながらも椿姫を出迎えた鏡華に怒っている様子はなかった。

 椿姫の命令違反を見逃した空璃にとってもそれは喜ばしい事だった。



「ただいま鏡華。お願い。この子達を保護してあげて。前のように伊軍へは行かせられないわ」


 椿姫以外の者を激しい頭痛が襲った。

 苦悶の表情を浮かべる面々を心配し駆け寄ろうとする椿姫だが、鏡華の手により制された。



「疾風の我夏葉と現皇帝陛下ね。いいわ。でも貴女が面倒を見るのよ」


 鏡華の許可を得た椿姫はすぐに"澪標"を使用し、幼い皇帝の記憶を覗き視た。

 案の定、黒ローブの女に瞳術をかけられており、その能力を解除する事は不可能だった。

 今は無抵抗かつ無気力だが、いつ於軍大将のように操られるか分からない。

 眼を閉じた椿姫は我夏葉に向き直った。



「皇帝君はあの女に操られていて、いつ私達に危害を加えるか分からない。だから、申し訳ないのだけれど暫く眠って貰うわ。でも絶対に苦痛は感じさせないから安心してちょうだい」


 我夏葉に許可を取るつもりはない。これは相談ではなく、ただの説明なのだ。

 黙って頷く我夏葉を待たずして、"梦幻鳳凰眼"を開いた椿姫はしゃがみ込み、幼い皇帝と目を合わせた。

 虚ろな表情は変わらず、視線は合わない。

 生気のない瞳を捉え、楽しかったであろう過去の記憶を抜粋して幻術をかけた。

 ゆっくりと瞳を閉じた幼い皇帝は安らかな顔つきで深い眠りに落ちたのだった。



「ありがとう」


「いいのよ。次は貴女の垂れ下がった腕を治しましょうか」


 "梦幻鳳凰眼"から凰花の眼へ切り替えた椿姫は我夏葉の左肩から指先までをじっくり観察した。

 神経経路は完璧に堰き止められている。

 瞬時にあの男が第五の型、翼蓮華を使用したと分かった。

 第二の型、乱芙蓉を使わなかった事であの男がどういう人物なのか理解できた気がした。



 人差し指を我夏葉の肩に突き刺していき、神経の流れる道を開通させる。

 一度だけ鋭い痛みが走り、我夏葉から小さな吐息が漏れた。



「これで良いわ。慣れるまで無茶をしてはダメよ」


 コクンと頷きながら左手を動かす我夏葉に笑みを向けている椿姫を横目に鏡華は海璃に指示を出していた。



「目的は達したわ。長居は無用よ。私達はこれで撤退しましょう」


「鏡華様、江軍が領内の復興作業を開始したみたいだよ。どうします?」


 事後処理に奔走している明峰からの報告に対して、鏡華は迷いなく答えた。



「私達からも出せる分だけ物資を分け与えなさい。それが済んだら帰るわよ」


 こうして椿姫は無事に我夏葉と幼い皇帝を救出し、前回とは異なる手段を取りつつも三軍同盟というゴールに向って歩みを進めた。

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