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第24話 椿超、椿姫未満

 明らさまに舌打ちをする椿は扉の前に移動していた蓮を睨み付けた。



「我夏葉達を追う。そこを退け」


「嫌です。それよりも僕は貴方を現実世界に連れ帰る為に来ました。一緒に来て貰います」


 ブチッと嫌な音を立て、椿の唇が切れた。



「それよりも…だと?お前が来たから空璃の肩に風穴が空いたんだぞ!我夏葉や皇帝まで見捨てさせるのか!?俺の世界では救えたのに!」


 椿が蓮との距離が縮める。

 しかし、蓮にとってその速度はあまりにも遅過ぎた。



「凰花流、第15の型、刺脚!」


「刺脚!」


 椿のつま先と蓮のつま先がぶつかり合う。

 見た限りでは拮抗しているが、本人達の感じ方は異なるものだった。

 一切、体幹がブレない事に驚愕する椿と、威勢だけの姿に呆れる蓮。

 蓮にとって、椿の凰花流は付け焼き刃に過ぎなかった。



 男でありながら凰花流を会得している蓮と、曾祖母である凰花 薔薇にのみ教わった椿とでは絶対的な力の差があった。

 当然、椿が競り負ける。

 今は分が悪いが、外にさえ出られれば対等に戦える。そんな考えが椿の脳裏をよぎった。

 しかし、その考えを振り払い、椿は蓮に背を向けて走り出した。

 今、一番優先すべきは勝敗をつける事ではなく、我夏葉と皇帝を救出する事なのだ。

 そして蓮もまた自分の目的を優先して椿を追った。



 城内から外に出た椿は椿姫となり、軽やかに走り出した。

 椿に次いで外へ出た蓮は前方を行く黒髪の少女を見つけた。



「女の子…?凰花 椿は!?」


 辺りを見回しても椿の姿はない。

 ひとまず、走り去る少女に話を聞く為に後を追い始めた。



 先を行く椿姫はチラリと後ろを振り返り、蓮がついて来ている事を確かめた。

 敢えて速度を落とし距離を詰められるように調整する。

 そして踏み込んだ右足を軸に反転し、貫手にした右手を突き出して迫り来る蓮に突撃した。



「なッ!?」


 第38の型、瞬捉を使って走る蓮はスピードを落とせないと判断し、自分の胸を狙う椿姫の貫手を第九の型、紫煙撫子で受け流した。



「このスピードでの突きを流すなんてね。でも…」


 椿姫は満面の笑顔を向ける。



「痛ッ!?」


 蓮の指や腕には無数の傷がつけられていた。

 何が起こったのか蓮には理解出来ない。ただ分かっている事は自分が血を流しているという事実だけだ。

 黙って腕を見る蓮の顔がだんだんと険しくなった。



「ふふん。凰花流の一桁を会得しても所詮は男というわけね。"私"には勝てないわよ」


 椿姫の方を見ることなく、蓮は腕から指先へ流れる血を全て丁寧に舐めた。

 出血が酷い箇所は啜りながら一滴も零さなかった。



「"さくらさんの血"を流しておいて、ただで済むと思うなよ」


 小さく呟いた後に顔を上げる。

 先程までの余裕の表情はなく、怒りを露わにした蓮が真紅の瞳で椿姫を睨んでいた。

 怒りに呑まれ、目の前の敵を倒す事だけを考え始めた蓮だが、その顔を目の当たりにして間抜けな声が漏れた。



「ぇ…。鈴蘭さん…?」


「ッ!?」


 打って変わり、椿姫の表情が見る見るうちに憎しみを含む。



「私の前でッ…その名を口にするなッ!」


 蓮の怒りと椿姫の憎しみがぶつかり合う中、轟音が響き、勝鬨と思われる声が二人の耳に届いた。



「…この勝負、預けるわ」


 先に冷静さを取り戻した椿姫は蓮に背を向け、空を走り戦線を離脱した。

 椿姫の背中を睨んだままの蓮は未だに腕から流れている血を舐めながら、落ち着きを取り戻すように努めた。



 頭を冷やす蓮は一つの真実に至った。

 白い悪魔と黒翼の天使は同一人物。

 男だと聞かされていた凰花 椿は女でもある。

 何故、このような事態になっているのか分からないが、それが事実であるならば受け入れるしかない。

 現に蓮も似たような経験をしているのだ。



 凰花 椿の身体について理解したが、先程の攻撃については詳細不明なままだ。

 反転した椿姫が放ったのは間違いなく第73の型、指突シトツだった。

 第九の型、紫煙撫子で軌道を変えた事で物理的なダメージは生じない筈だったが、蓮は切り傷を負った。

 考えても答えは出なかった。

 それもその筈。先程の攻撃は椿姫だけが使用できるオリジナル技なのだから、凰花流を徹底的に叩き込まれた蓮には想像もつかず、対処不可能で当然だった。



 思案を続けながら歩む道には脱ぎ捨てられた豪華な服が散乱している。

 その中から派手な帽子と手から溢れる程に大きな首飾りを持ち、宮中の出口に向かった。



 その頃には腕と指からの出血は止まっており、痛みも無かった。

 何故か。

 それは傷が"消えていた"からである。

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