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第23話 二人の違い

 連合軍の前には二つの関所が立ち塞がっている。

 これらを突破して宮中に辿り着くには数日かかるだろう。

 蓮は江軍の陣地から離れ、自分達を囲う渓谷の右側から迂回して宮中を目指す事にした。

 森林を突っ切る形になるがそこまで過酷ではないと判断した。

 数日かけ森の木の実や仕留めた獣の肉を食べて野宿し、ようやく宮中に辿り着いた。



 対して椿姫は兵糧を持ち、部隊の左側なら迂回を始めた。

 オリジナル技である第六変態、飛段を使用する事で空中歩行を行える椿姫にとってはどんな荒地だろうと関係なかった。

 野宿は必須だが食事に困る事はなく、天気が良ければ移動も順調であり、想像よりも早く宮中に辿り着いた。



 椿はフードを被り直し、辺りを見回したがそこに人影はない。

 以前は我夏葉が皇帝を連れ出していた為、屋外で戦闘出来たが今回は外に出られない程、手強い敵が居るのだと予想できた。


――敵。


 自分達は以前、誰と戦っていたのか。

 記憶は定かではないが、今は気にする事ではないと割り切り、意を決して城内に足を踏み入れた。

 


 椿よりも後に城内に進入した蓮は息を殺して、天井の梁から玉座の間の様子を窺っていた。

 玉座に座っているのは幼い少年。

 控えるのは我夏葉と近衛兵と思われる男達が数名。

 そして、全身が真っ黒な人物が仁王立ちしている。



「皇帝陛下。次々に関所が陥落させられています。ここも長くは持ちませぬ」


 全身を黒のローブで覆った人物は跪きながら報告する兵を興味なさげに見下ろしていた。

 兵が逃走を進言するという事は皇帝軍に戦う意志は無いのだろう。

 この情報を持ち帰れば、連合軍は戦闘を行わずに事態を収める事が出来る。

 しかし、蓮はそうしなかった。

 否。出来なかった。



 怒り、寂しさ、嬉しさといった様々な感情を含んだ表情の蓮がそこに居た。

 蓮はおもむろに鞭刀『玉簾』を抜いた。瞳を紅に染め、刀身を展開する。

 刀を振ること無く、神経操作により刀身を黒ローブの人物に向かって一直線に進ませた。

 黒ローブの人物は迫り来る鞭刀『玉簾』の刀身を弾く為に右腕を出そうとしたが、その必要は無かった。



「…ほゥ」


「…ぁ……」


 我夏葉から小さな声が漏れ、表情が和らぐ

 安堵の声を漏らした我夏葉の視線の先には篝水仙を振り切った凰花 椿が立っていた。


 

 梁から飛び降りた蓮は真正面から椿と対峙する。

 篝水仙で斬りかかる椿に対して蓮は鞭刀『玉簾』を展開せずに受け止めた。



「貴方が凰花 椿か!?」


「だったらどうした!」


 篝水仙を薙ぎ、後ろに下がった椿は皇帝の隣に立つ黒ローブの人物を目指して駆け出した。

 振り下ろした篝水仙は受け止められたが、跳躍して腹部を蹴り、皇帝から黒ローブの人物を引き離す。



「俺と来い!」


 椿の声に眉をピクリと動かした幼い皇帝を我夏葉が抱き抱えて走り出した。



「止まるなッ!服を脱がしながら走れ、我夏葉!」


 一度立ち止まり、振り向いた我夏葉はコクンと頷き、玉座の間から出て行った。

 状況を読んだ蓮は手を出さずにその光景を眺めている。

 そして、やはり自分達は踊らされていたのだと理解した。

 では、次に自分はどう動けば良いのか。そればかりを考えていた。

 蓮は鞭刀『玉簾』を構え、黒ローブの人物と椿を視界に捉えたままで動かない。



「凰花 蓮。君はあたしと戦わないの?」


 不意の問いかけにより、黒ローブの人物が女性だと分かった。



「僕の目的は達しました。貴女に用はありません」


 蓮の興味なさげな態度に気を悪くしたのか、黒ローブの人物は椿に向き直った。



「自分だけが特別だと思わないほうが良いよ。君が"過去"を支配するように、あたしは"意思"を支配する」


 黒のフードの下から怪しい模様の眼が覗いていた。



「何の目的があるか知らないが、俺の仲間に手を出した奴は許さない」


 ジリッと細かく足を動かし、隙を伺う椿と全く動きのない黒ローブの女性。



「必死に仲間を助けてあげてね。この世界は君の救った世界とは違うから」


 その駆け引きは終わりを迎え、黒ローブの女性は音もなく消え去った。

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