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第22話 赤目と雌犬

 椿姫と四蘭の衝突を回避した蓮は我夏葉の事をすっかり忘れていた。

 一蓮の元へ急ぐと、そこには大人しく座っている我夏葉と険しい顔をする一蓮の姿があった。



「君、君。この子全然、話してくれないかな」


「あの、一蓮さん…」


 蓮の言葉を目で制した一蓮は次いで我夏葉へと目を向けた。

 同じく視線を戻すと、我夏葉はジッと蓮を見上げていた。



「教えて下さい、我夏葉さん。何故、貴女達は僕達の討伐に踏み切ったんですか?」


「ん?何故、お前達は我夏葉達を攻める?」


「それは、君達が攻めて来るからかな」


 たったこれだけの会話でも矛盾を感じて仕方がなかった。

 一蓮が腕を組みながら言い放った言葉で我夏葉の目つきが変わる。



「違う。我夏葉達はそんな事してない」


 ジッと蓮を見上げる我夏葉は何かを必死に訴えようとしていた。

 しかし、言葉をならない声は蓮には届かない。

 蓮はしゃがみ込み、我夏葉と目線を合わせた。



「それなら、僕達と貴女達が戦う理由は何ですか?」


「…知らない。られるくらいならる。それだけ…」


 我夏葉の言葉を信じるのであれば、この戦は発起人である宇軍大将に仕組まれた可能性がある。

 そして、我夏葉は何かを隠している。或いは話したくても話せない何かを抱えている。

 しかし、蓮はそれらを全て無視した。

 その無慈悲さは当然、我夏葉に伝わる。



「赤目、お前は違う」


「え?」


「…お前は違う。雌犬は我夏葉と皇帝陛下を救うと言った。でも、赤目は我夏葉達を攻める。お前は雌犬には勝てない」


 次の瞬間、座り込んでいた我夏葉が勢いよく飛び上がった。

 蓮の頭上を飛び越え、走り去って行く我夏葉を兵が追ったが、蓮と一蓮はその場に留まっていた。



「あーぁ。逃げちゃったかな」


「逃がしたの間違いでは?」


「それはお互い様かな」


 一蓮は軍議を開く為に兵を姉妹の元へ向わせた。



「伊軍は皇帝軍を押し込み、更に追撃の姿勢を見せています」


 五虎の報告を聞いた一蓮は瞑っていた目を開いた。



「作戦が変更されるかな」


 一同が一蓮の方を向いた時、軍議の場に伝令兵が駆け込んで来た。



「宇軍及び連合軍総大将より、攻めに転じると伝令!」


 一蓮に注がれていた一同の視線は驚愕のものへと変わった。



「姉貴が変な事を言うから言う通りになったじゃねぇかよ」


「一姉のせいじゃないわよ」


 二猫と四蘭の掛け合いで、いくらか和やかな空気となったが、こちらも作戦変更を余儀なくされた。

 攻めるという事は宮中まで残りの関所を突破する事になる。

 五虎は必死に戦略を練った。

 そんな中、蓮だけは全く異なる事を考えていた。



「行きたいのかな?」


 ざわついていた天幕内が静まり返った。

 蓮はビクッと身体を跳ねさせ、顔を上げると一蓮と視線が合った。



「君は私の客であり、将でも兵でも無いかな。好きにすれば良いかな。ただし、私達も好きにするかな」


 一蓮と蓮は目的も手段も異なる。

 互いに利用するだけの関係だ。そこに大した信頼関係はない。

 それでも一蓮は蓮が江軍に不利益になる事はしないと言い切れる自信があった。

 対して蓮も一蓮が自分を縛り付ける真似はしないと確証があった。

 蓮は小さく頷き、天幕を後にした。



                  ◇


 伝令兵により事の詳細を確認した鏡華の隣には叱られた子供のように不貞腐れる椿の姿があった。

 手当を終えた空璃に肩を貸す海璃はいつもの光景に少し安堵した。



「空璃、椿と共に後方に下がりなさい」


「はっ!ここにいても足手まといでしょう。しかし、椿は…」


「今は連合軍として集まっているのよ。他軍と一悶着あった者を前線には置けないわ」


 文句の一つでも飛んでくるかと思ったが、空璃の心配は杞憂に終わった。

 椿は何も言わず瑞竜を担ぎ直し、海璃に代わって肩を貸して歩き始めた。



「随分と聞き分けが良いですね」


 海璃からの言葉に鏡華は何も答えなかった。

 椿にはキツく言い聞かせてある。何も問題はないだろう。

 頭が締め付けられるような痛みに襲われて思考は纏まらないが、これで上手くいく。

 そんな気がしていた。



 何故、四蘭は空璃の肩を射抜いたのか。何か理由がある筈だ。

 例えば、謎の鳳凰眼で操られていた可能性が無い訳ではない。

 そんな疑問と戦っているとは知らず、椿が唸っている様子を隣で眺めていた空璃はわざとらしく溜め息を吐いた。



「椿、そんなに考えるな。私の不注意だぞ」


「…そんな訳ないだろ。空璃は狙われたんだ。鏡華の右腕を流れ矢で戦闘不能に出来る奴なんて居ない」


 思わぬ高評価に頬を染める空璃がそっぽを向くと左肩が痛んだ。

 忙しない兵達とすれ違いながら、後方部隊に合流した椿は空璃を置いて、肩に担いだ瑞竜を地面に刺した。



「私はもう行くわ。大人しくしているのよ」


 純白のフード付きロングコートを脱いで腰に巻き付け、篝水仙もその上から縛り直す。



「お、おい!命令違反だぞ!」


「いいえ。私は後方へ下がれとしか言われていないわ。一度は下がったし、前線に合流するつもりもない。それに…」


 椿姫が不貞腐れていた理由は鏡華に叱られたからでも、自己嫌悪からでもない。

 全てを鏡華に読まれていたからだ。これから何をしようとしているのか。何を考えているのか。

 それら全てを見透かされていたのである。



「あぁ、もう!私は何も聞いてないし、見てないからな!好きにしろ!ただし飯は食って行け、そして持って行け。いくらお前でも腹は減るだろう」


 何かを悟った空璃は感じた事のない頭痛に襲われた。


――いくらお前でも。


 それは椿姫を深く理解しているからこその言葉だ。

 しかし、空璃が椿姫と出会ったのはほんの数ヶ月前だと記憶している。

 気持ち悪さを振り払うように頭を叩いた空璃は後方部隊の指揮を引き継いだ。

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