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第20話 異なる未来

 初戦は勝ち取ったが、翌日も攻防は続いた。

 そして遂に皇帝軍最強と名高い武将の部隊が姿を現した。



 昨日と異なり阿軍は前線の伊軍に加勢していたが、椿は本陣の護衛を務めていた。

 ここまでは以前と同じ展開である。

 この後、我夏葉がこの本陣に単騎突入して来る筈だった。



「なんで、なんであいつが…」


 椿は全てが上手くいかない事に苛立ちを隠せなかった。

 きつく握られた拳がその苛立ちの強さを物語っている。



「貴方の言った通りにはならなかったわね」


 冷ややかな声と視線が痛い。

 鏡華の顔を見る事が出来ない椿は信じがたい情報を聞かされていた。



 後方部隊へ配置変えとなっていた筈の江軍が皇帝軍に横槍を入れており、我夏葉は凰花 蓮と交戦中だと言う事だった。

 ここまで未来が変わってしまうと椿に出来る事は何も無かった。ただ、この戦の行く末を見守るしかない。

 もしも現皇帝の少年が何者かに捕らわれているのであれば、昔のよしみで救ってやりたいと望むのだった。



                  ◇


 一蓮の部隊と我夏葉の部隊がぶつかり合う。

 敵兵を倒す蓮は寒気に襲われ、咄嗟に回避行動を取った。

 嫌な予感は的中し、とてつもなく重い一撃が蓮を襲った。

 一瞬でも回避行動が遅ければ抉れたのは地面でなく、蓮の身体だっただろう。



「お前が赤目だな」


「…疾風の我夏葉」


 皇帝軍最強の武将と相見える形となり、蓮はいつもの癖で左瞼を撫でた。

 凄まじい速さの斬撃を避ける蓮は落ちている武器を拾って応戦する。

 我夏葉の横薙ぎを受け切れず吹っ飛んだが、地面に手をつき一回転して着地した。

 顔を上げると目の前に我夏葉の左手が迫っている。

 視力では追えない。感覚を研ぎ澄まし、反射的にその左手を掴んだ。



「凰花流、第57の型、楚車スワエグルマ


 蓮は交差するように左手を軸に我夏葉を一回転させた。

 地面に背中を打ち付ける直前に剣を地面に突き刺した我夏葉は右腕一本で体勢を維持していた。

 蓮は勢いのまま転がり、落ちていた弓と矢を拾い、我夏葉を目掛けて射る。

 首を傾け、矢を避けた我夏葉がふと足を止めた。



「…名は?」


「凰花 蓮」


「我夏葉は本気で行く。お前も本気で来い」


 再度構え直すが、我夏葉の雰囲気は先程と全く異なる。

 蓮は出し惜しみする余裕はないと判断し、心の中でさくらに呼びかけた。これもいつもの癖だ。



――いきますよ、さくらさん。



「"乙女解放オトメカイホウ"」


 左目開き、両目を閉じる。次に両目を開いた時には瞳は真紅に染まっており、内面を"女性"に変えた蓮がそこに立っていた。

 一見すると瞳の色以外に変化はない。

 腰の鞭刀『玉簾』の柄を持ち、腰を低く落として前へ出ると同時に抜刀した。

 刀身は遠心力を受け、我夏葉を目掛けて伸びる。



「っ!?」


 我夏葉は自身の剣で鞭刀『玉簾』の刀身を弾いたが、真上に弾かれた刀身が直角に曲がり、再度我夏葉の首を狙う。

 何度も何度も刀身を弾き返したが、その都度、角度を変えて急所を狙われる。

 一見不利に見えるが、我夏葉は冷静だった。



「…隙あり」


 蓮も気付いていない弱点を見抜き、鞭刀『玉簾』の刀身の間から剣を突き出した。



「なッ!?」


 横っ飛びで躱した蓮だが、自身が動けば動く程に刀身が暴れる為、より操作が困難となる。

 鞭刀『玉簾』の所有者は決して、その身を崩してはいけないのだ。

 一気に形勢を逆転した我夏葉は蓮の首を刎ね飛ばすつもりで剣を薙ぎ払った。



「…ここまでか」


 我夏葉の剣は空を切った。

 小さく呟いた蓮の姿は空高くにあった。

 鞭刀『玉簾』の刀身を元に戻し、鞘に収める。

 そして、凰花流の構えを取った。



「凰花流、第66の型、飄羽ヒョウウ


 第六の型、百花風刃はこの第66の型が使えなければ会得困難である。

 突風に襲われる我夏葉はその風さえも剣で切り裂いた。



「…ん?」


 土煙に目が眩んだ我夏葉の一瞬の隙をついた蓮は上空から我夏葉の両肩を狙った。



「第五の型、翼蓮華!」


 体を捻って避けた我夏葉だが、完璧な回避は不可能だった。

 左肩には蓮の手刀が深く突き刺さっている。

 一切の力が入らなくなった左肩から先を見下ろしている我夏葉は現実を受け入れるのに時間を要した。



「もう左腕は動きません。まだやるなら右腕も貰います」


 左手を手刀のままで我夏葉を睨みつける蓮は右手で鞭刀『玉簾』の柄を掴んだ。



「それでも、我夏葉は負けられない」


 左腕をぶら下げながら、突っ込んでくる我夏葉を一瞥した蓮は鞭刀『玉簾』を抜いた。

 先程までとは異なり、左腕の重みでフットワークの軽さがなくなった我夏葉はいとも簡単に捕まえる事が出来た。

 我夏葉の周りには蜷局とぐろを巻いた蛇のように鞭刀『玉簾』が巻き付いており、その切っ先は喉元へ突き付けられていた。



「ッ…!」


「僕の勝ちです。投降するなら命は奪いません」

 

 真紅の両眼で我夏葉を捉えつつ、投降をうながすが我夏葉は首を横に振った。

 全身に巻き付く鞭刀『玉簾』を解き、我夏葉の首周りにだけ、二重に巻き付け直した蓮は背中を押し、歩かせ始めた。

 その状態で歩く我夏葉は敵味方関係なく晒され、蓮の勝利が戦場に轟いた。



「一蓮さん、この人を殺さずに捕縛する許可を下さい」


「…まさか我夏葉将軍に本当に勝つなんて思ってもみなかったかな。好きにすれば良いかな」


 王への報告を終えた蓮は我夏葉を縛り上げ、話を聞く事にしたが更なる問題が降りかかった。



「あれはッ!?」


 我夏葉の手綱を一蓮に押し付けた蓮は全速力で走り出した。

 四蘭を止める為に。

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