第18話 それぞれの思惑
皇帝軍が阿軍、伊軍、宇軍、江軍の討伐を決意したという情報は一蓮の耳にも入った。
これ以上、現皇帝の権威を落とす訳にはいかず、反乱分子を潰す為の戦だと五虎は読んでいた。
一蓮達の元へも連合軍への参加を要請する文が届き、二つ返事を返している。
前皇帝はともかく、姿を見たこともない現皇帝に殺されるいわれはない。それは他軍も同じであろう。
万全の準備を整えて、連合軍が駐屯している合流地点へと辿り着いた。
これから各軍の代表者だけの軍議が始まる。
当然と言わんばかりに蓮は一蓮の隣を歩いていた。
護衛も兼ねているが、蓮の目的はただ一つ。他の天の国の住人と呼ばれている者達の顔を確認する事である。
「君も抜け目ないかな」
ニコニコしながら隣を歩く蓮の目つきが変わった。
伊軍の代表は見るからに日本人かつ現代人だった。
その少年の後ろには長槍を持つ女性が控えている。
阿軍の代表は小柄な女性であり、控えているのは短髪で交戦的な顔つきの女性だった。
手短に挨拶を済ませた三人は宇軍大将が待つ天幕の中へ入り、護衛の三人は天幕の外で待機する事になった。
蓮は閉じられた天幕を見つめ、思案を続けながらも周囲の警戒を怠らなかった。
伊軍の代表は間違いなく天の国の住人だと確信したが、凰花 椿ではないと直感が告げている。
伊軍の護衛――月皓と、阿軍の護衛――空璃は腕を組みながら黙って主人を待った。
そんな三者を遠方から見つめる白い影。
凰花 椿の瞳は凰花 蓮を捉えていた。
以前の世界では九条 幾斗とはこの場で初めて挨拶をしている。
そして自分の力不足により助力を求めた末、この異世界を救う事が出来たのだ。
今回は九条 幾斗の世話になる事はないと心に決め、直接の接触を控えていた。
姿は見えないが、蓮は自分を見据える視線を感じ取っていた。
この視線の先に居る人物こそ凰花 椿だと確信したが、周囲を見回してもそれらしき人物は見つからなかった。
そうこうしていると天幕から代表者達がゾロゾロと出て来た。
再度、伊軍の代表の顔を凝視して、その場を後にする。
「どうしたのかな?少し気が立っているかな」
「分かりますか?あの人、厄介ですね」
互いに前を向いたまま視線を合わせずに会話をしているが、誰の話をしているのかは理解し合っていた。
「…あぁ。九条 幾斗って名乗ってたかな。確かに厄介かな。先の戦でも君と同様の活躍だったと聞いているかな」
蓮はその活躍がどういったものだったのか知らない。
ましてや、どういう人物なのかも知らない。それでも蓮の額からは冷や汗が流れ落ちていた。
自軍に戻った一蓮は妹達に軍議の内容を伝えた。
決まった事は三つ。
於軍の討伐時と同様に総大将は宇軍の女帝が務める事。
於軍討伐戦とは異なり、団結して皇帝軍を迎え討つ事。
先鋒は伊軍が受け持つ事。先鋒を決める話し合いが始まった時、真っ先に手を挙げたのは九条 幾斗だった。
◇
阿軍陣地でも鏡華を中心に軍議が開かれていた。
「伊軍は放っておいて問題ないだろう。江軍に居る天の住人は俺の身内だ。俺がなんとかする」
「そう。伊軍は先鋒よ。そこでの活躍振りを見せて貰いましょう。それで、江軍の者とは何か因縁でもあるの?凄い顔をしてるけれど…」
「あいつと俺は相容れない存在だ。それに鏡華達の為にも早めに倒しておいて損はない」
「それは彼女達と共に私の前に立ちはだかると言う事かしら?」
椿にとっては昔の出来事だが、江軍と戦った時の事は鮮明に覚えている。
真剣な眼差しで頷く椿を信じる事にした鏡華は各部隊へ陣形の指示を出した。




