第3話 異世界への旅立ち
辺り一面真っ白な空間に女性と中学生程度の少女、そしてその者は居た。
「それじゃ、これから蓮ちゃんをあの世界に飛ばすからね~」
女性は小柄な背丈であり、とても成人している女性と表現するには心苦しいものがあった。
何を隠そう、凰花 椿を異世界へ誘ったのはこの女性である。
「時間が掛かっちゃってごめんね~」
「いえ、"あの人"に会えるのなら」
その者は女性の隣に立つ少女へ視線を向けた。
並び立つ女性よりも更に背が低く、幼さの残る顔つきである。
「さくらさんもありがとうございます。"さくらさんの血"もこの"眼"もより一層大切にします」
その者は左の瞼を摩りながら、にっこりと微笑んだ。
「ボクは何もしてないよ~。あとは蓮くん次第だからね!くれぐれも無理はしないように!」
人差し指を立てて、指摘と心配をする少女を前にその者は心強さを感じながら頷いた。
「あ、そうだ蓮ちゃん」
女性はいつもよりも幾らか真剣な眼差しで言葉を紡いだ。
「君はこれから"本当の眼" を開眼する」
可能性の話ではない。これは確定事項である。
女性はきっぱりと言い切った。
「次に開くのは"鳳凰眼"。凰花の瞳術の最終形態なんだけど、君の眼は"怒りの瞳"。この先、君は酷く苦しむ事になると思う」
その者には女性が何を言っているのか分からなかった。
ただ自分の眼が特殊な事だけは、保護者である少女から聞かされている。
「ウチらはここで見ている事しか出来ない。でもね、蓮ちゃんが鳳凰眼をある程度扱えるようになって限界を感じたなら、麻呂が力を貸してあげる」
女性は最後には笑い、少年の肩に手を置いた。
「分かりました。眼の事はさくらさんから聞いています。"あの人"と対等に渡り合う為にも"眼"が必要だと思うので何とか自分の物にします」
「最後に余から君にプレゼントだよ」
女性は自身に与えられた"愛"の瞳術を開いた。両目に怪しい模様が浮かび上がり、異質な雰囲気を纏う。
「君の眼には、終わらぬ懺悔"紅爛鳳凰眼"の名を与える。怒りの感情を持ち、未来を司る鳳凰の眼だよ!このプレゼントを忘れないでね!あとこれも」
女性は一本の刀を手渡した。
「これは!?」
「使い方は蓮ちゃんが一番詳しいでしょ」
鞘に収まった刀を受け取ったその者は女性と少女の姿を最後まで見続けながら意識を手放した。
あの者が異世界へ旅立った後、真っ白な世界には二人だけが残った。
「ありがとう、お母さん」
「いやいや~。可愛い娘のお願いは断れないよ!」
見た目も話し方もそっくりな二人である。
凰花 椿を異世界へ飛ばす事は必須事項だったが、今回の一件は女性が企てたものではなかった。
あの者が保護者である凰花 さくらへ懇願した事で異世界へ旅立つ事になったのだが、さくらの表情は始終、浮かないものである。
「そんなに心配しないの~。"今は"さくらちゃんの子なんでしょ?信じてあげないとね」
「…うん」
さくらは笑うが、いつもの元気はなかった。
「何かあれば、さくらちゃんの"愛"が助けてくれるよ。もう細工済みなんでしょ?」
女性は少女の髪をくしゃと撫でた。
この女性は全てを知っている。
「ま、何にしても蓮ちゃんの器次第だね!あの子はどんな花を咲かせるのかな?」
そう言い女性は異世界を覗き始めたのだった。
こうして、とある目的を達成する為に凰花 蓮の旅が始まった。




