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第35話 江軍の女王

 適当な理由をつけて九条 幾斗の元へ向けて出立した椿は瑪瑙と合流し連れ添って馬を走らせた。



「皇帝軍との戦から俺達は踊らされていると思うんです。だから豹麟さん、鍛冶屋もきっと何者かが九条 幾斗に罪を着せる為に仕組んだのではないかと考えています」


「そうだね。椿くんと九条 幾斗が手を組まなければ、今頃は三軍が入り乱れての大きな戦になっていただろうね」


「でも誰が…?」


 真の敵を見極める事なく九条 幾斗の元へ着いた二人は護衛が月皓という事に驚いた。

 武器の握れない月皓だが、素手でも問題ないという事だった。



「今日はフードを被っているんだね。取れば良いのに」


 九条 幾斗からの何気ない指摘に椿は被りを振った。



「今日は日差しが強いからな」


 訝しげな九条 幾斗と月皓だが、それ以上の追及がなかった事は幸いだった。

 江軍の領地に入ったが何の問題もなく町へと着き、門も開かれた。

 そして、すんなりと城内に通された四人は警戒心を抱いていた。



「初めまして、ではないかな。私がこの軍を束ねる王かな。宜しくして欲しいかな」


 へらへらと笑う女性は椿達四人を応接間で、もてなしたのだが違和感が拭い切れない。

 それでも、本題を切り出した九条 幾斗と椿は素性を明かし、これからの戦を止めて一つの国に纏める提案を出したのだが…。



「何故、阿軍に従わないといけないのかな?」


「いや、そうじゃない。国を三つに分断して、三人の王で国を統一するんだよ」


 九条 幾斗の説明を受けても、理解し切れないといった様子で頭を悩ませる江軍の王に対して四人は耐え忍んだ。



「それってつまりは睨み合いを続けるって事かな。それは根本的な解決なのかな?」


 独特な語尾だが、話す速度はゆっくりで的を得ている。しっかりと考えながらの発言だと見て取れた。



「普通、王は一人かな。私が本当の王になってこの国をもっと良くするかな」


 椅子の肘置きに身体を預けた江の王は、侍女に茶菓子の用意をさせ始めた。

 椿達にも付き合うように誘い、一時休息となったのだが誰も手をつけようとしなかった。

 何やら、きな臭い雰囲気がしてならないのだ。



「美味しいのに、食べないのかな?」


 パクパクと茶菓子を食べていく江の王は掴み所が無く何を考えているのか分からない。

 柘榴とは違った不気味さが椿を警戒させた。



「話が進まないようなら、俺達はこれで失礼する」


「えぇー、もう帰っちゃうのかな。もう少しお話したいかな」


 唇を舐めながら、立ち上がった椿を見上げる江の王の表情や声には残念そうな感情の欠片も感じなかった。



「何を企んでいる?」


「買い被り過ぎかな。それから、私の名は一蓮イーレンと言うかな。この名、君なら呼んでも良いかな」


 声、表情と不一致する語尾に苛立つ椿だが、それが江の女王である一蓮の狙いだった。

 次に動いたのは瑪瑙だ。隣に立つ椿の袖を引き、扉を見るように促す。扉の向こうには先程までは居なかった多数の気配があった。



「嵌められたみたいだね」


 瑪瑙の言葉で椿は悟った。自分達は足止めされているという事を。



「気づいちゃったかな?この場には、悪魔くんと女狐の娘と伊を導く天の住人とその武将が居る。攻めるなら、今しかないかな」


 同一人物とは思えない程の覇気が彼女から溢れ出し、空気が揺れる。

 瑪瑙や月皓でさえも欺く術を持つ王を前に九条 幾斗だけは平然としていた。



「ここは、俺と月皓でどうにかするから、椿と瑪瑙さんは行ってくれる?手荒になっても良いから、戦を止めて欲しいんだ」


 いつも通りの九条 幾斗の声と表情に安堵した月皓は一蓮の前に立ちはだかった。

 同時に四方の扉が開き、武装した兵が周囲を囲む。



「でも、月皓はッ!」


 椿が止めようとした時、瑪瑙が月皓の額に人差し指を押しつけた。

 そして、ジッと目を見つめる。たった数秒程のやり取りは月皓にも意味が分からなかった。



「月皓ちゃん、これで少しだけの時間なら武器を握れるから、足止め宜しくね。行こう椿くん」


 手を引かれた椿はされるがままに歩き出し、扉を守る兵士達を倒し始めた。九条 幾斗と月皓も加勢し、四方八方を塞ぐ兵士達を相手にする。

 そんな月皓は疑心暗鬼ながら、敵兵から槍を奪い取った。いつもならこの時点で強烈な目眩と吐き気で立っていられないのだが、今は違う。

 一時的にかつての力を取り戻した月皓はまさに一騎当千だった。

 道が開けた時、すかさず瑪瑙が椿を連れて走り出し、廊下を突き進んだ。



「あぁ、逃しちゃったかな。仕方ないかな。皆、戦に行ってるし残ってる兵だけじゃ心許ないかな。さて、天の住人。話し合いの続きをしましょうか…かな」


変わらず椅子に腰掛けている一蓮は兵を退かせ、九条 幾斗と月皓に着座を命じたのだった。

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