第31話 療養
宮廷での柘榴との戦闘に勝利したものの、途中で倒れた椿は助けに戻ってきた隊長と瑠捺によって阿軍の城へと連れ帰られた。その後も高熱が続き、未だに目を覚まさない。
原因は休養を取らず続いた戦闘、謎の瞳術の使用。肉体的にも精神的にも疲労困憊な状態だった。
「うわぁあぁぁぁ」
悪夢から解き放たれた椿は叫びながら目を覚ました。目を開けるが右側の景色が見えない事に気付き、さらに混乱する。
その叫び声を聞きつけた阿軍の者達が続々と部屋に押し寄せて来る。
「兄様!?入るよ!」
動かない身体を跳ね上がらせて暴れる椿を押さえ付けたいが、狂犬のように暴れる椿を拘束できない。
海璃と瑠捺も加勢したが、それでも抑えきれない程だった。
しかし、鏡華の一喝により椿は大人しくなった。鏡華は左目に涙を溜める椿に優しく語りかけ始めた。
「目が見えない。右の目が!」
「大丈夫よ。右目が見えないのは貴方が包帯を巻いているからよ。分かる?」
椿の手を右目へと誘う。小さな安堵の吐息を漏らした椿は鏡華の手を握り、寝息を立て始めた。
訓練場へ向う廊下には二人の男が連れ添って歩いていた。
「姫が倒れたと聞いたが?」
「うむ。今は療養されておられる」
「今の内にゆっくり休んで貰わなければな」
伊軍、江軍が戦の準備を進めているという情報を得た阿軍は同様に万全の態勢を整えていた。そうなると嫌でも椿は戦場に駆り出されてしまう。發と白は椿の身を案じていた。
目を覚ますと自室のベッドに寝かされていた。
誰が運んでくれたのかと疑問に思いながら天井を眺めていると、右側半分が見えない事に気付いた。同時に右手に温もりを感じる。
重い左手で右目付近を触ると包帯が巻かれていた。納得して右側が見える位置まで首を回すと、自身の右手を握りながら眠っている鏡華を見つけた。
椿はしばし全てを忘れて眠りに落ちた。
数日後、巻かれた包帯を解いてもらいゆっくり右目を開く。
「見える。見えるぞ!」
「あとは足の傷が目立っていたな」
確認すると下腿にも包帯が巻かれていた。
「一応報告は受けたけれど、貴方から補足する事はある?」
「鍛冶屋を連れ去るように命令したのは九条 幾斗だ」
鏡華を含め、一行は驚愕の表情を浮かべた。
「九条 幾斗だけは許さない。いや、あいつもだ。月皓。あいつが九条 幾斗に情報を流したに違いない。絶対に潰す。今の俺にはそれだけの"能力"がある」
この時、冷静を欠いている椿は矛盾に気付いていなかった。
椿が月皓を送り届けた日と豹麟が連れ去れた日はほぼ同時に近い。月皓の情報を元に九条 幾斗が宮廷の副長官に豹麟を捕らえるように指示する事は不可能だった。
怪我も順調に回復している椿は運動を兼ねて警邏の仕事を行うようになっていた。
豹麟の店にも出向いたが、豹麟と会う事は叶わなかった。
現在、瑞竜と折れた篝水仙を修理していると聞いているが、自分の武器以上に豹麟の体調を案じていた。
珍しく机に座り、貴重な紙にメモをしていく。
柘榴と戦っている時に咄嗟に使った百花氷刃というものについて考えていた。
これは風で水を氷に変化させる事により発動できるのだが、凰花流には存在しない型だった。
他にも応用が利く筈だと考えた椿は100まである型をカテゴリー別に分けて試行錯誤し、形になりそうなものをいくつか見つけ出した。
「…凰花流は未完成の武術なのか?」
そして椿は一つの仮説に辿り着いた。




