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第30話 憎しみの瞳

 自身の中には黒い球体が浮いていた。それは心の奥底で眠りについていた椿姫の根源であり、核となる感情。

 凰花 椿姫は根源に至り、その感情を受け入れた事で知られざる能力が解放された。



「ふふん。永遠の夢を見せてあげるわ」


 今の自分がどのような風貌なのかは分からないが、今開いている"眼"がこれまでの物と異なる事は分かっていた。

 脳に直接伝達される使用方法。瞳術"澪標"にて対象者の過去を読み盗り、それに基づいて幻を見せる事が可能だと理解した。



 椿姫は戦闘開始からずっと"澪標"を使用しているが柘榴の内面を覗けていなかった。それ程までに柘榴の精神力は強い。

 しかし、今ならばと全力の"澪標"を発動させると一瞬だけ見通す事ができた。



「……んっ」


 柘榴の表情が歪み、片腕で胸を隠すようにして、ゆらりと立ち上がる椿姫を見下ろしていた。



「あまり感心しませんね。勝手に他人の心の内を読むなんて」


 まだ余裕を見せる柘榴は落ちている剣を拾い上げ、椿姫に切り掛かった。椿姫も篝水仙を握り直して応戦する。

 何かこの状況をひっくり返す会心の一手はないかと考える椿姫の瞳に井戸が映った。

 柘榴の薙ぎ払いを受け、わざと井戸の方向へ跳び上がった椿姫は樽で水を汲み、柘榴へ向けてぶち撒けた。



「苦し紛れを。ただの水ですよ」


 もう一度汲み、次は空中へ向けて樽の中身を全て放出した。



「ただの水?水は気体、液体、固体に変化する素晴らしい物質ですよ」


 空中から落ちてくる大量の水。椿姫は右手を前に、左手を後ろに構えた。



「凰花流合気柔術、第六変態。百花氷刃(ヒャッカヒョウジン)


 第六の型である百花風刃で水を液体から固体へと変化させ、風に乗せて柘榴へと打ち込む。



「っ!?舐めてもらっては困ります!」


 迫り来る無数の氷の刃を剣で払い落としている柘榴に篝水仙を向けて走り出す。

 柘榴の瞳には椿姫が映っていた。その身体には氷の刃が刺さっているが、見事に篝水仙は受け止めていた。

 否。折られていた。



「ふふん。その言葉、そのまま返すわ」


 柘榴は動かない。

 椿姫は折れた篝水仙を持ったまま、一歩後ずさった。

 やはり柘榴は動かない。

 息を切らしながら、半分ほど刀身を失った篝水仙を鞘へと収め、ふらふらと門まで歩いて行く椿姫に瑪瑙が駆け寄った。



「…瑪瑙さん。俺と戦いますか?」


 汚れたフードで頭部を包みながら問う。

 瑪瑙は黙ったまま、宮廷から出て行く椿の姿が見えなくなるまで見送った。

 両瞼を押さえながら、ふらふらと歩く白装束の男。誰がどう見ても不審者だが、そんな事を考える余裕は今の椿にはなかった。遠くから聞こえる声に返答できず、前のめりに倒れ込んだ。




「…かはっ!」


 しばらく無呼吸だった柘榴は膝から崩れ落ちた。

 誰しも知られたくはない過去や二度と経験したくない事の一つや二つはあるだろう。

 椿姫の瞳術はそういった一種のトラウマをより残酷に追体験させ、精神的に追い詰める能力を持つ。

 普通の人間なら精神崩壊している筈だが柘榴は違った。

 小さく笑い、地べたに寝転んだが、普段ならばこのような事は絶対にしない。それ程までに柘榴も体力を消耗していた。

 柘榴に刺さった氷の刃はいつの間にか溶けて、豪華絢爛な衣服を濡らしていた。




 豹麟が囚われていた独房のある地下室から一人の男が現れた。全てこの男の目論見通りに物事が進行しており、笑みを隠しきれない様子である。

 今回の一件で、鏡華へ天下統一を差し出すという約束と共に、椿姫の憎しみの矛先は九条 幾斗に向いた。

 この世界の情勢が一気に覆る大きな戦が幕を開けていく。

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