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第29話 根源

 根源――それは物事の始まり。凰花 椿姫という人間を形成している核。



「お話は終わりましたか?それでは、お仕置きの時間です」


「俺は今、機嫌が悪い」


「仮にも女の子なのですから、言葉遣いには気をつけないといけませんよ」


 柘榴は微笑みながら自分の娘に視線を移し、手を出すなと無言の圧力をかけた上で椿姫と向き合った。

 第38の型、瞬捉で柘榴の目前へ移動した椿姫は一撃で決めるつもりで型を繰り出した。



「凰花流合気柔術、第二の型、乱芙蓉ランフヨウ


 人差し指と中指だけを立てて、特定の部位を突くことにより、相手の神経の流れを完全に断ち切る型である。しかし、撃ち終わってみると全く手応えがない。驚く事に柘榴の両脇に指を挟まれており、型は失敗に終わった。

 細長いピンヒールが椿姫の左足に吸い込まれる。腰を捻り、回避したが掠めただけで下腿の皮膚が切り裂かれた。

 両手を捕まれて身動きが取れない椿姫を鋭い蹴りが襲う。この姿で防戦一方に追い込まれたのは柘榴が初めてだった。

 それでも負けるわけにはいかない。脇の下に挟まれた左指を腋窩に喰い込ませた椿姫は一時的に神経の流れを止める事に成功した。脱力する柘榴の右腕に自身の左腕を蛇のように絡み付け、地面に押し倒したが、柘榴は咄嗟に左手を地面につき、腕一本で自分と椿姫の体重を支えた。

 驚愕しながらも椿姫は腕を引き抜き、距離を取る。柘榴は左手に付着した砂を払い落としながら、愉快そうに笑っていた。



「手を汚されたのは久々です。それでこそ、わたくしが見込んだ"鳳凰"」


 鳳凰とは、徳の高い王による平安な治世あるいは、優れた知性を持つ者が生まれた際に現れるとされている五色の霊鳥である。

 激しい戦闘にも関わらず、息一つ弾ませない柘榴の雑談を聞くつもりはない。その鳳凰と自分に何の関係があるのか興味もない椿姫だが、この機に体力の回復を図った。



「今回の場合は前者ですね。鏡華が阿という国を治め始めた頃に貴女が現れました」


「偶然でしょう?」


「そうは思いません。わたくしの中の狐がそう言ってます」


「…狐?」


「実はわたくしは九尾の狐なのです」


 目の前の女性は確かに化け物並みに強いが、決して狐ではない。

 九尾の狐とは、王室の守り神とされる霊獣である。



わたくしの一族は代々、王室に仕えてきました。それ故にわたくし達は狐と呼ばれるのです」


 話は終わりだとでも言うように柘榴が細めた目を開いた。

 暫しの休憩を終えた椿姫は腰の篝水仙を抜き、攻撃を繰り出すが全てを箸でいなされた。遂には、篝水仙の刃先を摘む次第である。しかし、そこに椿姫の姿はなかった。



「黒翼と呼ばれる所以をお見せしましょう」


 腰まで伸びる黒髪が広がり、下から見る者には椿姫の背中に翼が生えているようにも見える。故に黒翼の異名を得たのだ。



「第五の型、翼蓮華ツバサレンゲ!」


 落下の際に腕を柘榴の肩に食い込ませようと試みるが後ろに下がって避けられた。



「まだだ。第68の型、兎狩トガリ


 最大限に足を伸ばしたがあと一歩が届かない。

 体勢を維持する柘榴は拳を突き出した。唯の正拳突きに見えるが椿姫の視点では腕が九本に見えていた。九本の腕が一斉に襲って来る。

 一見すると不利なのは椿姫だが、その当人は不気味な笑みを零していた。"眼"を開いた椿姫はとてつもない速さで迫り来る九本の拳を上下左右に身体を動かして避けてみせた。



「もういいでしょ!貴女の自己満足に付き合う程、私は暇じゃない。早く帰って…」


 身体を下げて拳を躱した時、椿姫は後悔した。柘榴の拳は頭上を通過したが、柘榴本人は椿姫を覆うように立っている。

 陽の光が一時的に遮断され、本来の姿を取り戻した事で"眼"は唯の目へ戻った。当然、柘榴の拳を避ける事は不可能となる。

 腹にめり込んだ拳が内臓を抉る感覚を脳が知覚した。地面に膝を着き、嗚咽をこぼす少年を見下ろす柘榴が退くと可愛らしい少女が現れた。しかし、持ち前の美しい黒髪は土埃に汚れて、纏りがなく、小汚い少女が蹲っていた。



「無様ですね。さて、逃げた者達を追いましょう」


 右手で腹部を押さえながら、左手で柘榴の足首を掴むが呆気なく振り解かれた。



――憎い。九条 幾斗が。柘榴が。俺を否定する全てのモノが憎い。



 力なく項垂れた左手で地面を掴み、顔を上げた椿姫は優雅に佇む敵を睨み付けた。

 この時、漆黒の瞳は形を変え、歪な模様が描かれていた。

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