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第28話 豹麟救出劇

 閉ざされた玉座の間にも聞こえる程にその足音は大きかった。その者の心が穏やかでは無い事を物語っている。

 鏡華が目を開くと同時に必死の形相の椿が扉を開いた。



「此の者は重大な罪を犯した。故にそれ相当の処罰を下す。だそうよ」


「豹麟さんが何の罪を犯した!?」


「そんな報告は受けていないわ」


 指を絡め、いつもの冷静な表情で淡々と言葉を紡ぐ鏡華は椿について考えていた。

 元々、不安定な精神状態な子だが、自分達の存在や能力チカラを得た事で今は安定しつつあると思っていた。

 今回の一件は椿の根底を揺るがす何かを孕んでいる気がしてならない。しかし、椿を止める事は出来ないだろうと判断し、道を示す事にした。



「以前、宮廷に行ったわね。あそこの地下に独房があるから、恐らく鍛冶屋はそこに入れられている筈よ」


「助けに行く」


「一人で行ってどうするつもりだ?」


「女の姿ならやれる!」


 腕組みする空璃に対して、怒号に近い声を上げる椿は見るからに冷静さを欠いていた。



「貴方の部隊を連れて行きなさい。瑠捺は元宮廷勤めだそうよ。宮廷内の地理は把握しているのよね?」


「はっ!必ずや椿様のお役に立ちます」


 衝撃の事実を聞いても椿は動じなかった。すぐに隊長、瑠捺、海璃、軍師達を連れて作戦会議を始めた。



 翌日、有時と同様に武装した部隊は出立した。休む暇のない椿だが、そんな事を言っている余裕はない。明峰に渡された非常に不味い漢方薬を飲み干し、今日を迎えていた。

 真っ向から挑むほかに宮廷内に侵入する方法がない為、強行手段を取るしかないが、瑠捺だけは官僚長である柘榴と戦うべきではないと唱えた。

 極力、戦闘は避けて豹麟を救出する。超難易度の任務だ。



 宮廷に忍び込んだ椿は瑠捺の案内で真っ先に独房へ向ったが、豹麟がそこに居る確証はない。

 瑠捺は捕らえた看守を羽交い締めにして椿の前に突き出した。フードを脱ぎ女となった椿姫は一度閉じた目を見開いた。

 瞳術"澪標"の能力により看守の記憶を覗き見た事で豹麟がどこに収監されているのか把握する事ができた。凰花流で看守を地面に叩き付けて先を急ぐ。

 瑠捺と共に看守を倒して行き、地下の独房に豹麟の姿を見つけた。



「ぬし!?なぜ来た!ここに居てはならん」


「何を言ってるんですか!今、助けます」


 鍵を破壊して豹麟を連れ出す事に成功した二人は階段を駆け上がった。外には多くの武官が待ち構えており、戦闘を回避する事は困難だった。

 相手の突き出した槍を避けた際に椿をフードが脱げた。男から女への変身は一瞬であり、武官達は元から女と戦っていたと思った。しかし、豹麟は違う。自分の手を握り戦っている者は間違いなく男だった。それが今は女へ姿を変えている。

 なりふり構っていられない椿姫はそんな事は気にせずに敵を倒し続けた。

 漸く隊長と合流した椿姫は豹麟を預け、手筈通りに殿を受け持つ。そんな椿姫の前に立ちふさがる人影が一つと後ろから歩いて来る気配が一つ。



「随分と騒がしいですこと。あら。凰花様ではありませんか。今日は女の子なのですね」


「厄介なのが出て来ましたよ」


「貴女は瑠捺さんですね。再開出来て嬉しい限りです」


 柘榴は椿姫達の後ろから歩いて来る人物に目を向けた。



「瑪瑙さん。何故このような事態になっているのですか?」


「知らない。私だって、今帰って来たんだから」


「あらあら。そうでしたね。では副長官さんはどこにいらっしゃるのかしら」


 椿姫達を挟んで親子の会話をする二人を他所に隊長と瑠捺に耳打ちする。



「ここは私が受け持つわ。豹麟さんを連れて先に帰りなさい」


「しかし!」


「何としても豹麟さんだけは逃がしたいの」


「行くぞ瑠捺。我らの仕事は護送だ」


珍しく隊長が隊長らしい事を言っていると感動しながら行動に移った。



「何故、逃げるのですか?」


「貴女の相手は私です」


 柘榴は椿姫の攻撃を受け流しながらも、視線だけは隊長達を捉えていた。

 瑠捺が振りかぶった短剣を柘榴は懐から出した一組の箸でがっちりと摘んだ。尚も左手は椿姫の相手をしている。



「逃げるものを追いたくなるのは人の性ですよ」


 柘榴が両手を引き寄せ、掴まれている椿姫と瑠捺は左右の肩をぶつけ合った。



「「っく」」


 椿姫と瑠捺を離した柘榴は標的である隊長と豹麟に追い付こうとしていた。



「第38の型、瞬捉シュンソク


 尋常ではない速さで移動した椿姫は柘榴の手を握り捻り上げた。



「随分と速く動けるのですね」


 隊長、豹麟、瑠捺は無事に部隊と合流し宮廷を抜け出した。

 柘榴は残念そうに背中を見つめており、椿姫の手を振りほどこうとはしない。

 死に物狂いで駆け寄った副長官に説明を促すがなかなか答えず、業を煮やした椿姫は柘榴の手を離し、副長官の前に移動して手の甲で頬を打った。

 よろける副長官を転けない程度の威力で蹴りながら、壁へと追い詰めて行く。壁にぶつかった所で副長官の喉を足の裏で圧迫した。



「答えなさい。誰の命令で動いたの?」


 足を少しだけ離すと咳き込んだ後にその人物の名を語った。



「…天からの使者様だ」


 それは椿姫以外に一人しか存在しない人物。恐る恐る"澪標"を発動し、副長官の過去を覗いた。



―――――

――――

―――

――

副長官は薄暗い部屋の椅子に座っており、目の前には男性が立っていた。椿の予想通り、副長官の話相手は間違いなく九条 幾斗だった。



「"白い悪魔"と"黒翼の天使"。その二人はいずれこの国を滅びに向かわせます。そんな危険人物の武器を作っている鍛冶屋の女性。その者を捕らえる事こそ、この国の秩序を守る貴方達の使命です」

―――――

――――

―――

――



「九条ぉおぉぉぉ」


 叫びながら、力のままに副長官を地面へと叩きつけた。

 この時、凰花 椿姫は自身の根源に至った。

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