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第27話 女子会後の怪しい雲行き

 その日の夜。満月の明るさを頼りに探し物をする人物がいた。考え事に没頭していた為、背後から近付く人影に気付かなかった。



「こらっ!」


ビクンと体を跳ね上げた月皓はすぐに背後を振り向いた。



「…黒翼の天使」


「こんな所で何してるの?」


 言葉を濁す月皓の強さは昼間の試合で分かった。椿姫が気配を消して近付いたとはいえ、あれ程までに驚かれると良からぬ事を考えているとしか思えなかった。



「まぁいいわ。一杯どう?」


 中庭の一角にはテラスのような場所があり、机と椅子が用意されている。普段は誰かが休憩に使用する場所だが、こんな深夜には誰も居ない。

 月皓を連れた椿姫は鏡華秘蔵の桃の果実酒を取り出してグラスに注いだ。乾杯し、しばし言葉を交わした後に本題を切り出した。



「ねぇ。月皓さんは九条 幾斗の事が好きなの?」


「ななな、何を!?」


「好きなんだ」


「確かに好きではあるが、これは主従関係の好きであって。その…」


 即ちガールズトークである。ニヤニヤと笑う椿姫に対して、月皓が反撃を始めた。



「貴女はどうなのですか!?椿殿とは!」


「この私が相手にするわけないでしょ」


「お似合いだと思いますよ」


「馬鹿な事を言わないでちょうだい」


 椿姫は一切の表情を崩さず、涼やかな雰囲気のままグラスを弄んでいる。

 それもその筈、椿姫は一人芝居を続けているだから、当然の結果だった。



「馬が合わないと言うか。同じ空間に居られないの」


「そうなのですか!?だから貴女が居る時は椿殿の姿が見えないのですね」


「そういう事ね」


 ついでに椿と椿姫が同時に現れない理由も付け加えておいた。酒に酔っている月皓は素直に信じたのだろうか。

 それは誰にも分からない。しかし、何かいけないスイッチがを押してしまった事は明白だった。

 恋愛話をする彼女はどんどん饒舌になっていく。遂には机を叩いて立ち上がる始末だ。

 そして顔を真っ赤にして俯いた。



「ふ~ん。そっか」


 月皓がどれ程までに九条 幾斗を想っているのかを知ることが出来た椿姫は、適当な理由を付けて女子会をお開きにした。

 次に向かうのは鏡華の部屋だ。

 深夜にも関わらず机に向かう鏡華の元へ歩み、机に手を着いた。



「月皓を伊軍に戻したいのだけれど」


鏡華は何も言わず筆を止めた。



「彼女はここに居ても本領を発揮出来ないわよ。それに…」


「それに、帽子を被っての生活が嫌になった。警邏にも行けない。仕事が出来ない。かしら?」


 椿姫は言い淀んだ。交渉材料が全て見透かされていた。

 上目遣いに椿姫を見上げる鏡華は筆を置き、立ち上がった。

 椿姫の持つ果実酒の入った瓶を持ち、その匂いを嗅ぐ。お気に入りのグラスを二つ取り出し、それぞれに注いだ。



「月皓を伊軍に返す事には反対しないわ。それで、貴女は私に何を差し出すのかしら?」


「この国を、天下統一を捧げるわ」


「…ほぅ」


 愉快そうにグラスを持ち上げた鏡華は、片方のグラスを椿姫に差し出した。優しくぶつかったグラスは小気味の良い音を奏でた。

 桃の果実酒を一気に煽った鏡華に先程までの固い表情は無い。



「お酒が入ったし、やる気も削がれたわね。それで、月皓とは何か話した?」


 椿姫はここに来るまでにあった事を全て話した。



「そう。部屋を抜け出して、逃げ道を探していた事には気付いていたけれど、まさか逃されるとは思わないでしょうね」


 ほんのりと頬を染める鏡華はご機嫌に酒を煽り続けた。

 結局、宇軍殲滅の戦に月皓を参加させ、それが達成すれば用済みとなり、その身柄をどうするのかは椿姫に一任するという事で話は纏まった。



 数日後には阿の全軍で宇軍に戦を仕掛け、見事に勝利を収めた。

 月皓も戦に参加し、その武力と統率力を見定める事に成功した鏡華は満足げに椿姫に後を託したのだった。



「すぐに身支度を整えなさい。九条 幾斗の所まで送るわ」


「正気ですか!?私を逃がすなど!」


「だって逃げたいのでしょう?私の好意を受け取れないとでも言うのかしら」


 戦を終え、帰還した翌日。椿姫は月皓に伊軍の新たな拠点まで送る事を伝えた。

 阿軍の領地から僅かの場所に居を構えたと報告があり、海璃の見立てでは夕刻までには到着するという事だった。

 最初は戸惑った月皓だったが、素直に身支度を整えて阿軍の領地を出立した。



「こんな事を言ってはいけないのかもしれませんが、私は貴女と戦いたくありません」


「…そう」


「幾斗様と一度会談して下さい。貴女となら戦わない道も選べる筈です」


「出来ることなら私もそうしたい。でも私の独断で決められる事ではないわ。鏡華の歩む道を邪魔する権利は持ち合わせていないのよ」


 その後、二人は一言も話さず馬を走らせ、夕刻までに伊軍の新たなる拠点へ辿り着いた。無事に九条 幾斗達と合流した月皓は涙を流しながら喜んだ。

 その光景を離れた所から眺める椿姫は毛先を指に絡めて弄んでいる。

 伊軍一行からは多くの感謝の言葉を贈られ、もてなしの誘いを受けたが、椿姫はそれら全てを適当にあしらい帰還を急いだ。



「九条 幾斗、我が王からの伝言よ。今回の事は気にせず、己の正義に従って攻めてきなさい。じゃあね、月皓さん。相見えない事を祈っているわ」


 悠長に別れの挨拶しているが、とにかく時間がないのだ。

 少しでも九条 幾斗や月皓から離れたいと移動を開始した椿姫だが、胸の重みが消えた事にすぐさま気付いた。確認するまでもなく、髪も短くなっていく。

 空を見上げると、黒く分厚い雲が太陽を隠していた。雨に降られたが、幸いフード付きロングコートを持って来ていた為、ずぶ濡れは回避できた。



 一夜を町の宿屋で過ごし、帰還した椿姫を待ち受けていたものは残酷な現実だった。

 門番が椿姫の姿を確認し、すぐさまに大門を開く。

 慌しく駆け寄る門番を不審に思う椿姫は彼らの言っている内容がいまいち理解出来なかった。

 町内にも関わらず、馬を走らせる椿姫は警邏部隊の詰所の扉を乱暴に開き、隊長に詰め寄った。



「何が起きたんですか!?」

 

 町は変わらず平和だが、明らかなに出立前と雰囲気が異なる。

 焦って問いただす椿の元に城の方から瑠捺が駆け付けた。



「椿様、鍛冶屋が…豹麟さんが連行されました」


 隊長の肩を掴んでいた椿の手が脱落した。



「なんで…。豹麟さんが何かしたのか?」


「いいえ。相手は宮廷です。突然現れ、有無を言わさず連行されました。今、鏡華様が遣いを送っています」


 詰所を飛び出した椿は町の最奥にある豹麟の店へ向かった。店の中に争った形跡は無く、無抵抗だったと予測出来た。

 後を追って来た瑠捺に説得され、椿は鏡華の元へ向かったのだった。

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