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第25話 思わぬ来客

 城内に居る者達に挨拶しながら玉座の間を目指して歩く。その反対側から来た瑠捺は懐かしい椿の姿を見つけた。

 篝水仙を腰ベルトから抜く事に手間取っている椿は瑠捺に気付いていない。



「椿様、わたしを置いてどこに行っていたのですか?」


 唇を尖らせながら、顔を突き出している瑠捺に気付いた椿は素っ頓狂な声を出しながら飛び上がった。

 瑠捺は椿の口を塞ぎ、しーっと囁いた。



「まさかこんなに驚かれるとは…。それよりも椿様、小脇に抱えた服を被って玉座の間に入って下さい」


 口から飛び出しそうになった心臓の動悸を抑えつつ、瑠捺の指示に従う。



「何でこんな事しないといけないんだ?」


「椿様が居ない間に色々あったのですよ」


 困ったように呟く瑠捺に続き、椿は"白い悪魔"として玉座の間に入った。



「今、帰ったぞ」


 全員が一斉に椿の方を向いた。空璃が騒いでおり、それを海璃が制している。



「落ち着け空璃よ。まずは報告を聞こう」


「いや、それより先に聞かせろ」


 状況を把握し、いつもより強気に命令口調で話すしかないと考えた椿は迷いなく言動を変えた。



「何故、敵将がここに居る?」


「貴方が出払っている間にね。後から詳しく説明するわ」


 玉座の間に居た人物は伊軍の武将である女性だった。

 先の戦で我夏葉と皇帝を九条 幾斗に任せた時に同行していた彼女の名は月皓ツキシロと言う。伊軍きっての強者である。

 月皓はやるせない顔で頭を下げた。椿はフードを深く被ったままで素顔は曝さない。



「白い悪魔殿はどちらに出掛けられていたのですか?」


 なんと答えるのが適切なのか迷った。旅行です、と答える訳にもいかず視線を向けると鏡華はニヤリと笑った。

 試されていると感づいた椿だが上手く頭が回らない。そんな椿に救いの手を差し伸べたのは明峰だった。



「兄様、東の賊は討伐出来たの?」


 可愛らしくウインクする明峰に感謝しつつ、話を合わせる。



「あぁ、勿論だ」


「賊!?そんな話は聞いてないぞ!」


 心の奥底から叫びたい気持ちを押し殺してフードの下から空璃を睨んだ。

 誰かあの馬鹿を止めて欲しい。そんな椿の心を読んだかのように海璃がフォローする。



「教えたら自分も行くと言っただろう?」


「うむ、勿論だ。椿だけでは心許ないからな」


 こうして名前がばらされてしまった椿は呆れてため息をつくのだった。

 その後、鏡華の部屋へ移動してこれまでの経緯を聞いた。

 伊軍は宇軍に戦を仕掛けられ敗走した上、追撃に遭い、逃走経路として阿軍の領地内を通らせて欲しいと申し出てきた。

 快諾した鏡華は領地を抜けさせる間に宇軍の追撃部隊を一掃して見せた。その見返りとして月皓をいただいたという話だった。

 鏡華にとっては天下統一に向けて宇軍は潰すべき敵であり、月皓という伊軍の戦力を削いで、自軍の戦力向上を果たし一石三鳥である。



「いずれ宇軍も江軍も伊軍も叩くわ。それでこの忙しい時に貴方はどこにいたの?」


 大まかな旅の内容を話した。椿は阿の領地を出てすぐに伊軍の領地へ向った。その時は平和そのものだったが、椿が去った数日後には戦が始まっていた事になる。

 一寸先は闇とはこういう事を言うのか。椿は一人頷くが鏡華は冷ややかな目を向けたままだ。雰囲気が悪い時は話題を変えるに限る。



「それはそうと、椿姫の方をどうするかだが」


「考えてあるわ。"黒翼の天使"は西の賊を討伐中。帰りは明日の朝。これなら問題はないでしょう」


「あぁ。でも、そろそろ満月になる」


「その時は上手くやりなさい。その程度の実力は付けている筈よ」


 鏡華の評価は正しい。余程の事がない限り、今の椿は男と女が混合するような事はない。ひと一人騙すなど、造作もない事だ。

 翌日。一同が集まる中、發が見事な演技で玉座の間に飛び込んだ。



「姫様がご帰還なされました!」


「姉様が帰って来たの!?」


「姫様を迎えに行きましょう!」


 明峰、瑠捺が手筈通りに台詞を並べ、全員で外に出る事に成功した。椿の帰還時とは大きな差である。



「おかえり。随分と遅かったわね」


「仕方ないでしょう。報告よりも人数が多かったのだもの」


「お疲れ様でした姫様」


「ありがとう瑠捺。あら、貴女は伊軍に居た人ね。その節はどうも。我夏葉さんは元気かしら?」


「はい。元皇帝陛下もご無事です」


 ここまでは非常に良い流れだ。問題はここからだった。

 ずっと外に居る訳にはいかない為、月皓に気付かれないように部屋へ隠れる必要がある。



「そう。また詳しく聞かせてちょうだい。今は凄く疲れているから少し休むわね」


 上手く月皓の視界を遮るように空璃、海璃、發、白が立っており、椿姫は遊撃部隊の兵士達に囲まれながら城の中へ消えていった。



「結構、疲れるものね」


「早く帰ってくれねぇかな」


 日陰に入る直前と直後で愚痴も異なる徹底ぶりだった。隣では隊長が苦笑していた。

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