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第24話 宮中にて

 軽く三十人は超えているであろう武官達に連れられたのだが、土地勘のない椿には自分の居る場所がどこだか分からない。すでに陽は沈み、夜を迎えていた。



 宮中。すなわち王の住む所。元々は今の幼い皇帝やその親が住んでいた場所だが、前皇帝の死後、官僚達だけの住処となっている。

 元皇帝の少年は宮中から追い出され、我夏葉達と共に別の場所へ移り住んでいたのだ。そこが宮廷と呼ばれていた。



 大広間へと通された椿と瑪瑙だが、椿は篝水仙を帯刀したままである。

 それ程までに取るに足らない存在と思われているのか、と少しばかり立腹しながらも黙って歩いた。

 大広間の中央には長い机が一つ。そして無駄に大きく派手な椅子が三脚あるだけだ。

 そのどれもが鏡華の玉座よりも立派な物だった。

 ゆっくりと扉が開き、コツコツと足音を鳴らしながら姿を現したのは高いヒールを履いた女性だった。

 促されるままに椅子に座った椿は気付かれないように手汗を服で拭った。



「お久しぶりですね、瑪瑙さん」


 女性は目を細めており、常に笑顔を貼り付けているような印象を受けた。

 椿の隣からは大きめの舌打ちが聞こえる。



「あらあら。未だに反抗期から脱せていないなんて。母は悲しいわ」


 袖を目尻にあてがい、泣き真似をする女性。この女性は瑪瑙の義母である。

 親子喧嘩を聞かされる椿はずっと蚊帳の外だった。



「時に瑪瑙さん。隣の殿方はどなたですか?」


「知人です」


 いきなり話の中心人物になった椿は咄嗟にそう答えたのだが瑪瑙の義母はそこに居なかった。

 一瞬にして椿の後ろに移動し、顔を覗き込んでいたのである。



「貴方、御名前は何と仰るのですか?」


「…凰花 椿と申します」


 呆気に取られながら、自己紹介をする椿を見つける時も女性は目を細めたままだった。しかし、しっかりと見られている感覚がある。

 瑪瑙に叱られた女性は椿の前から退き、丁寧にお辞儀した。



「申し遅れました。わたくし、瑪瑙さんの義母ははをやらせてもらっています柘榴ザクロと申します。楽になさって下さいね」


 椿には隠していたが瑪瑙は官僚であり、ここは瑪瑙の家でもあるのだ。夜の移動は困難であり、柘榴に説得された椿も宮中に泊まる事になった。

 瑪瑙は不満を漏らしながらも自室へ向い、椿は柘榴と二人で話をする事になった。たわいもない会話をしばし続けた後に、柘榴は本題を切り出した。



「凰花様は阿軍所属という事ですが、勿論、"白い悪魔"と"黒翼の天使"とはお知り合いという事ですね」


 黒翼の天使とは、椿姫の通り名で定着している。

 白い悪魔とは、椿の通り名である。純白のロングコートに身を包み、担ぎ上げた大剣で鏡華の前に立ち塞がる敵を薙ぎ払う姿を見た誰かがそう呼び始めたのだ。当然、どこぞの機動戦士や魔法少女とは異なる。



「はい。良く知っています」


「まぁ、そうですか。噂は聞き及んでおります。一振りで一個小隊を壊滅させた悪魔と、あの我夏葉将軍を退けた天使。一度、お目にかかりたいものです」


 椿の話は大幅に誇張されているが、ここは否定しないでおこうと考えた。

 可愛らしく両手を合わせながら笑みを浮かべる柘榴だが、その口角はいやらしく釣り上がっている。

 椿は表情を変える事なく、発言に注意しながら会話を続けた。鏡華からの教育を受けておいて良かったと最も実感した瞬間だった。

 始終、緊張しながらの会話だったが、特に失言する事なくお開きとなった。

 用意された部屋で休む事になったのだが、ただただ広い部屋の真ん中に置かれた寝台で眠るには十分な時間が必要だった。



「凰花 椿様ですか。瑪瑙さんが入れ込むという事は相当な人物という事ですね」


 椿と入れ替わるように部屋へ招いた瑪瑙を前に柘榴は笑みを解いた。



「彼が"悪魔"で"天使"だよ」


「まぁ。それではあの方は男であり、女であるという事ですね」


 瑪瑙は観念し、自分の知る情報を全て洗いざらい報告したのだった。

 それから数日間、天候などを理由に帰宅を許されなかった椿は朝から晩まで大層なおもてなしを受けた後に阿軍の領地へ向けて馬を走らせた。

 柘榴の厚意で官僚の一人に案内役を任せ、無事に帰還を果たした。椿の旅行は一ヶ月に及ぼうとしていた。

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