第21話 終戦
今回の戦は連合軍の勝利で幕を閉じた。最終決戦の舞台となった宮廷付近も損害が激しく、領内に残された住民に対して炊き出し等の事後処理が行われている。
於軍の大将は逃亡したようで、そちらは宇軍が追撃していた。後に於軍は壊滅させられ、皇帝軍は事実上の失脚となった。
於軍の領地は宇軍のものとなり、皇帝軍の領地は阿軍のものとなった。そして椿姫は"最強"の称号を得た。
元皇帝の少年と我夏葉はというと。
「兄様、伊軍の九条っていう人が姉様に会いたいって言ってるけど、どうする?」
来客を知らせに来た明峰の頭を撫でて、九条 幾斗の待つ場所へと向かう。まだ夕刻であり、辛うじて椿姫でいられる時間帯だ。
話の内容は予想通り、保護した二人の身柄についてだった。今は伊軍の天幕の中に隠れて貰っているようだが、阿軍の元へ護送させるか否かという相談だった。
しばし考えた椿姫はかぶりを振った。上手くやったとしても他の軍に見られる危険を冒す必要はない。同じ日本人なら信用しても良いだろうと考え、そのまま二人を連れてこの地を出立するように促した。
「そういえば、我夏葉さんと皇帝君に対してどういう設定をでっち上げたの?」
「黒翼の天使が最強の我夏葉将軍を打ち破った。皇帝陛下は既に於軍の大将が殺していて、その実権を掌握していたとしたよ」
なかなかにえげつない事をしている。全責任を於軍の大将に押し付け、これを理由に処刑でもする予定なのだろうか。そして、その役は宇軍に譲ったという事だった。
自らの手を汚さずに功績を立てた同郷の少年は爽やかな笑顔を椿姫に向けた。
椿姫はふと気付いた。自分があの我夏葉を打ち破ったとなれば、この国の最強は自分になっているではないかと。抗議するにしても遅すぎる為、許容するしか選択肢はなかった。
その後、鏡華と九条 幾斗が話をつけ、領地は阿軍が、人材は伊軍が獲得する事になった。皇帝は正体を隠し、生きる事になるだろう。彼にとってはそちらの方が良いのかもしれない。
我夏葉も伊軍に下り、その武を新たな主君の為に振るう事になる。
話が纏まり踵を返した九条 幾斗だったが、振り返ると何か言いたげに口を少しだけ開いた。しかし、言葉が紡がれる事はなく、笑顔を向けられただけだった。
意図が分からない椿姫だったが、そんなに深く考えず、鏡華と共に天幕へと戻って行った。
「惚れられたのかもね」
「まさか。私の好みじゃないわ」
勝手に我夏葉と皇帝を手放した事を咎められるかと思ったが、それは徒労に終わった。女子トークを始めた鏡華に安堵し、ひとときの安らぎを楽しんだのだった。




