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第19話 共闘

 前線では宇軍、江軍が戦闘を開始した。

 後方から情報を集める鏡華は、隣に立つ椿姫に目配せする。手筈通りに作戦を決行させる為だ。



 椿姫の遊撃部隊は静かに進軍を開始し、前線が開いた道を行き、難なく皇帝の支配する敷地に辿り着いた。

 阿軍の領地とは比べ物にならない程の広大さで自分がどこに居るのか分からない。

 こんな場所で皇帝を探すなど気の遠くなる話だった。

 更にもう一つの問題は戦闘が屋外で繰り広げられるわけではないという事だ。万が一、王宮内での戦闘になれば椿姫は椿に戻ってしまい、必ず負けるだろう。

 そんな考えを巡らせる椿姫は瑠捺の声で現実に引き戻された。



「黒い奴らが来ましたよ」


 続々と黒い衣服を纏った者達が増え、椿姫の部隊を囲むように陣形を整えていく。

 瑠捺は巧みに馬を扱うが敵の数が多く、囲まれるのも時間の問題だ。



「姫様、跳んで下さい」


 今、椿姫は瑠捺の馬に二人乗りしている。

 瑠捺の肩を支えにして、ゆっくりと立ち上がった椿姫は黒い衣服の者達を越える程の跳躍を見せた。

 見事に包囲網を突破した椿姫は走り出す。

 兎に角、敵の少ない方へ向かうが、あちこちで戦闘が開始されており、人探しが出来る状況ではなかった。

 ふと、立ち止まり息を整えていると、見知った顔が物陰からこちらを覗いていた。



「何やってるの?」


「あ、雌犬。我夏葉は隠れてる」


「雌犬ってなんだよ」


 ハッとして、椿姫は左手で口元を隠した。居るはずのない鏡華に怯え、辺りを見回し安堵の声を漏らす。



「…今のはいけないわ。うん」


 そんな椿姫の心境を知る由もない我夏葉は手招きして、物陰に隠れるように指示した。



(そっちに行くと、この身体を維持できないのだけれど…)


 尚も棒立ちを続ける椿姫に業を煮やした我夏葉が物陰から出ると、同時に黒い衣服の者達が現れた。



「「…あ」」


 そんな二人の行動は迅速だった。

 我夏葉は物陰に手を伸ばし、何かを引っ張り上げた。椿姫は敵の鳩尾に蹴りをお見舞いし、道を開いた。

 我夏葉の手を握り、一生懸命に走っているのはまだ年端もいかない少年だった。



「この子が皇帝なの?」


「そう。皇帝陛下」


 話を聞くと、開戦と同時に黒い衣服の者達が襲ってきたと言う。近衛兵は必死に皇帝を守り、我夏葉に託したようだ。

 怯えながらも我夏葉の手をしっかりと握っている少年に目を向け、椿姫は考えたが妙案は出てこない。

 裏門へ向かう我夏葉について行くが、当然連合軍からは離れる結果となる。援軍が望めない以上、二人で皇帝を守りきらなければならない。

 徐々に黒い衣服の者達に囲まれた二人は、皇帝を挟むように背中を向い合わせて敵と対峙した。



「殺せ、皇帝を殺せ」


 ボソボソと呟く言葉は皆同じだった。

 皇帝陛下と呼ばれた少年は震えており、今にも膝から崩れ落ちそうになっている。



「戦える?」


「ふふん。勿論」


 我夏葉の声に振り向かず答えた椿姫は凰花流の構えを取った。

 次々と迫り来る敵を二人で倒し続けるが、活路が見出せない。

 我夏葉と椿姫の間を縫って皇帝を狙う槍を椿姫が捌いている間に、我夏葉が敵を仕留めた。

 二人の息が合いつつある。椿姫は我夏葉に耳打ちした。



「皇帝君を抱えて、真上に跳べるかしら?」


「跳べる」


 たったそれだけのやり取りを終え、椿姫は右手を前に左手を後ろに構えた。

 我夏葉のタイミングに合わせて、型を放つ。


「凰花流、第六の型、百花風刃!」


 椿姫の周囲にある風は刃となり、取り囲む黒い衣服の者達を切り裂いた。

 百花風刃は上下へ放つ事が出来ない為、回避するには上空へ逃げるしかないのだ。

 着地した我夏葉は皇帝を抱きかかえて走り出した。

 走る椿姫達の前方では敵が次々に倒れていくのが見えた。

 瑠捺達かと思ったが、見知らぬ女性が中心となり小隊が敵を殲滅していた。よく見ると先日、握手した少年もいた。



「黒翼の…天使」


 先日の少年こと九条 幾斗は椿姫と出会い、息を呑んだ。

 美しさと強さを兼ね備えた黒髪の少女はこの世界では非常に珍しい容姿をしている。

 椿姫は息を切らしながら九条 幾斗へ問いかけた。



「貴方はこの世界をどうしたいの?」


「…俺は皆が笑って暮らせる平和な世界にしたい」


九条 幾斗は少しだけ考え、真っ直ぐに椿姫を見つめて答えた。



「我夏葉さん、皇帝君と一緒にこの男について行った方が良いわ」


 椿姫は簡単に二人の説明を終え、九条 幾斗に二人を託した。

 正直、自軍で保護したいのだが、この状況で皇帝を守ったところで、阿軍と伊軍で功績の取り合いになると考えた。

 それならば救出したのは阿軍で身柄の保護は伊軍が請け負ったとした方が、大きな問題にはならないだろうと考えたのだ。

 我夏葉と皇帝に恩を売る事が出来たので、鏡華も余り文句は言わないだろうという見立てだった。

 天の国から来たという九条 幾斗を祭り上げていない伊軍だからこそ頼める内容だが、念のために釘を刺しておく事にした。



「無いと思うけれど、この子を利用するようなら、"悪魔"と"天使"で貴方の命を奪いに行くわ」


 眉目秀麗な少女からは想像も出来ない程の威圧感を全身で受け止めた九条 幾斗は、何故か心底嬉しそうに笑って申し入れを承諾した。

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