第2話 鳳と凰
「…ふふん」
過去に天使と呼ばれた少女は不敵に笑う。
「な、何故ッ!何故、存在しているッ!?」
霊鳥は声を荒げた。
その巨大な顔に変化はなく、どのような表情をしているのか定かでは無い。
しかし、上擦る声から察するに経験した事もない程に驚いているのだろう。
霊鳥の眼下に広がる真っ白な空間には手を繋いだ二人が存在した。
「やっぱり気付いていなかったみたいですね」
「数千年も生きればボケるのも当然だわ。私なんて、たった百年でもしんどいのに」
椿姫は指先で髪を弄び、蓮は左瞼をさする。
この癖だけは百年生きようとも直らなかった。
「凰花 嶺の存在が無くなれば、お前達もこの世に産まれない筈だッ!」
椿姫は馬鹿にしたように笑い、蓮は蔑むように目を細めた。
「四つの眼しか持たない貴方と六つの眼を持つ私達。どちらが強いと思う?」
「何…っ?いや、そんな…まさか……」
霊鳥の動揺は辺り一面真っ白な空間を震撼させた。
「図ったなッ!甜岌ゥゥウウウ!!!」
凰花 椿姫は梦幻鳳凰眼の正当継承者である。
彼女は産まれる前に凰花 梔に潤邏鳳凰眼の能力を与えられ、男児になった。
彼女は異世界という名の箱庭にて凰花 嶺に甜岌鳳凰眼の能力を与えられ、少女になった。
彼女は激戦の末に死亡したが、凰花 雛罌粟に艶揶鳳凰眼の能力を与えられ、生者になった。
凰花 蓮は紅爛鳳凰眼の正当継承者である。
彼は産まれた直後に古河 雛菊に戯瞑鳳凰眼の能力を与えられ、自我を拘束された。
彼は生後数日で凰花 雛罌粟に艶揶鳳凰眼の能力を与えられ、名前と性別を強奪された。
彼は異世界という名の箱庭にて凰花 嶺に甜岌鳳凰眼の能力を与えられ、能力を統合された。
椿姫と蓮はそれぞれが一つの眼を持ち、三つの鳳凰眼の能力を与えられている。
即ち、二人合わせると全ての事象を支配する能力を得ている事になる。
鳳凰眼の消滅に伴い、一時的に能力は解除されたが霊鳥は彼らを鳳凰眼越しに眺めているのだ。
その眼が光を失わない限り、彼らには加護が降り注ぐ。
「鳳凰の"鳳"はオス、"凰"はメス。私達は二人で貴方と同等に成れる」
「僕達は貴方と喧嘩をする為に来たわけではありません。預かっていた眼はお返しします。だから、貴方の"意思"で"夢現を繋ぎ"、貴方が眼を奪われた"過去"を"破壊"し、貴方が眼を奪われなかった"未来"を"創造"して下さい。それで呪いはお終いです」
霊鳥は巨大は四つの眼を見開いた。
「…それでどうする?凰花 嶺は"花の渓谷"から生まれた者だぞ。人間の子から産まれない可能性が高い。仮に産まれたとしても日本に渡り、九条 幾斗と出会わなければお前達は産まれないのだぞ」
霊鳥は二人の意図を汲み取ったが、それは余りにも無謀な賭けだ。
全ての過去をやり直した上で同じ未来へ辿り着く確率は如何ほどのものか。
しかし、目の前の少年少女は不屈の姿勢を崩さず、真っ直ぐな視線を向けていた。
「…良かろう。わたしに不利な事は何も無い。貴様達の眼、返して貰うぞ」
霊鳥が翼を持ち上げると椿姫と蓮の両眼が消滅し、霊鳥の空洞だった眼窩に収まった。
六つの眼を取り戻した霊鳥はそれぞれに異なる模様を描く眼球をギョロギョロと動かし、能力を発動させて数千年の時を超えた。
椿姫と蓮はその様子を見る事が出来ない。
どんな結果であっても例えどちらかが、或いは両者が産まれなかったとしても後悔はしないと誓い、固く握ったお互いの手を離すことは無かった。




