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最終話 二人の想い

「行ってきますわ」


「私も出ようかな。途中まで一緒に行こっか」


                  ◇



「行ってきます」


「待って。気をつけて行くのよ」


「ふふん。ありがとう」


                  ◇



「じゃあ、行ってきます」


「行ってくる」


「うん。いってらっしゃい。今日は寄り道しないでね」


「「分かってる」」



 今日もいつもと変わらない日常が始まった。

 いつも通りに家を出ると十字路で彼女達と出会った。これも日課である。



「おはよう。今日は部活もバイトもなしよ」


「分かってますよ」


「相変わらず煩い奴だな」


「勿論ですわ。今日は何よりも大切な日ですものね」


 四人で同じ学校に登校し、同じクラスに入る。

 同じ授業を受け、同じ時間に下校する。



 そして夜、平安時代の寝殿造りのような建物の前に到着すると大きな門が開かれ、中へと案内された。

 毎年の恒例行事に参加する為、家族でこの家に足を運ぶのは実に一年振りである。

 玄関に着くと沢山の靴を綺麗に並べている少女の姿があった。



「いらっしゃい。もう皆、来ているわよ」


「これお母さんに渡してあげて。きっと喜ぶと思うから」


「まぁ。ありがとうございます、おば様」


 袋の中身を見て微笑む少女の姿はいつみても綺麗だった。

 大広間に入ると親族一同が揃っており、その光景は壮観の一言である。



「皆様、本日はお集まりいただき、ありがとうございます。僭越ながら本年度の掛け軸をお披露目させていただきます」


 上座に姿を現した初老の女性は壁に掛けられた布を一思いに引き剥がした。

 ドッと大広間がざわめき、全ての視線が一点に集中する。

 壁に掛けられた立派な掛け軸には何十年、何百年と続く一族の家系図が描かれていた。



 この掛け軸は子供が産まれる度に書き足され、一年に一度作り直すという掟になっている。

 そして、それが今日という大切な日なのだ。

 今日は一家にとって至宝と呼ばれた女性の誕生日である。



「では、祝杯を」


 大人達は酒の入ったグラスを持ち、子供達はジュースの入ったコップを掲げた。



「九条 嶺様の生誕と九条家の発展を願って。乾杯っ!」



「「「乾杯っ!」」」


 本家の者も分家の者も関係無く、宴は盛大に執り行われた。



「久しぶりだね」


「あっ!良かった。今年も来れたのね」


「そんなに私に会いたかったの?」


「姉さんへの気持ちが強すぎて、流石にちょっと怖いくらいですわ」


「今日までずっとソワソワしていたからな」


 この光景にも見慣れたなと思いながら、何気なく辺りを見回す。

 上座に座っているのが、九条 薔薇。

 その隣で料理を切り分けているのが、九条 梔。

 台所から料理や食器を運んで来ているのが、九条 鈴蘭。

 彼女を手伝っているのが、古河 雛菊。



 席を立ち、改めて掛け軸を見上げるとその存在感に圧倒された。

 九条 嶺の下には九条 さくら、九条 秋桜。

 九条 秋桜の下には九条 紫陽花、九条 雛罌粟。

 その下にも花の名を持つ者達の名前が連なっていく。

 


 ご先祖様達には出会った事が無いにも関わらず、鮮明に彼女達の姿を思い描けるような不思議な感覚に毎年襲われるが、決して嫌な感覚では無かった。

 


 目の前に広がる壮大な家系図に自分の名前が刻まれている事は名誉だと思っている。

 この想いを胸に抱き、大人になっていくのだと思う。



―――

――


 九条本家の上空を飛ぶ巨大な鳥は夜空に輝く銀色の満月を横切るように巨大な翼を羽ばたかせた。



 六つのまなこで地上を見下ろす、その鳥を見た者は誰一人としていない。



 巨大な鳥は高度を下げ、マンションの一室を覗き見た。



 机の上には写真立てが飾ってある。

 全員が満面の笑みを浮かべており、幸せが溢れる写真の二列目には鈴蘭、雛菊、姫百合。

 一列目にはリサに腕を絡める椿姫と、蓮に腕を絡める百合が写っていた。



 無謀な賭けに挑み、未来を勝ち取った二人の行く末を見届けた巨大な鳥は六つの眼を細め、彼方へと飛び去った。





 二人の想い

 それは、様々な者の想いが咲き乱れた先に訪れた奇跡。



――幸福と平温な日常をありがとう。



椿萱並茂ちんけんへいも』『一蓮托生いちれんたくしょう



最終章 現実世界編-未来-【完】


繚乱する想い -a tale of garden. 〜おばあちゃんから鳳凰の瞳を預かってたみたいだから、一緒に返しに行ってみる?〜【完】

数ある小説の中から本作品を選び、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

タイトルを変えたり、あらすじを書き足したりと迷走している時期もありましたが、無事に完結させる事が出来て安心しています。


内容も書き方も好き嫌いの分かれる物に仕上がったと思いますが、いかがだったでしょうか。


日頃から文章を書く機会は無いのですが、頭の中にある物語をこのように表現出来た事は良い経験になったと思います。

ここまで続けられたのは皆様のおかげです。

この小説は読了時間が約630分との事ですが、それ程の時間をこの作品を読む為に使っていただけたという事が何よりも嬉しいです。

ありがとうございました。


2022年2月16日 桜枕

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