第14話 お披露目
連合軍の駐留地に到着した阿軍一行。
鏡華は代表として軍議に参加する事になった為、椿も護衛として付き従っている。
現在は純白のロングコートを羽織り、フードを深々と被っているので周囲の者から椿の顔は認識できないだろう。
鏡華、椿、軍師が歩くと人が避けて道ができた。そして、ひそひそと声が聞こえる。
耳を澄ますと"悪魔"と言っているのが聞こえたが、思い当たる節のない椿は無視して歩き続けた。
しばらく軍議が行われている天幕の外で待機していると話し声が止み、ゾロゾロと各軍の代表達が出てきた。
その内の一人が興味深そうに椿に近づく。品定めするような視線が不愉快だが、何も言わずに黙って耐えた。
天幕から鏡華も出てきて、椿が絡まれている事に気付いた。
「うちの子に何か用かしら?」
「その子が噂の悪魔くんかな。君、うちの軍に来る気はないかな?」
また悪魔だ。これは自分を指しているのだと理解した。
唐突の勧誘だったが椿にそんな気はない。鏡華も特に気にする風もなく適当にあしらっていた。
今の女性が江軍の代表である。
「他の諸侯達は椿と椿姫が同一人物だとは知らないわ。発言と変身には注意するように」
耳にタコが出来る程に聞かされた禁則事項だ。
先程の女性と入れ替わるように挨拶に来たのは少年と女性だった。
適当な会話内容を聞き流しつつ、少年を見るがどう見ても日本人だ。そんな少年が手を差し出してきた。
「俺は九条 幾斗。よろしく」
自分以外にも異世界に飛ばされた人物が居たのだと安心して、手を取り名前だけを教える事にした。
「…椿だ」
悪魔っぽい雰囲気を演出して自己紹介したつもりだが、悪魔っぽいとは一体どういう状態なのか誰も分からない。
他にも聞きたい事はあるが、鏡華が自軍に戻ると言い出したのでまたの機会にする事にした。
椿の隣には發と白が居る。折角、この場にこの国の支配を目論む全ての軍が集まっているのだ。勉強も兼ねて、各軍の特徴を聞いているところなのだが、やはり敵である於の軍が厄介だった。兵力差が明らかな上に皇帝直属の将も取り込んでいるとなると苦戦を強いられるだろう。
しかし、何故そんな事態に陥っているのか椿には理解出来なかった。
發はこのまま空璃の大隊へ合流するようだが白は仕事があると言い、海璃の大隊とは別行動になるという事だった。
相変わらず、嫌らしい笑みを浮かべているが仕事は出来るらしい。
白は海璃の大隊に含まれる隠密部隊筆頭であり別行動が常である。白は戦場で消えるとさえ言われている程の手練れだ。
対して發は真逆であり、その存在感で敵を引きつける守護者のような振る舞いを売りにしている。
そんな二人と別れた椿は自身の部隊に向かった。
「隊長!皆の調子はどうですか?」
「隊長は貴方でしょうが!」
ポンと背中を叩かれた男。歴戦の戦士というに相応しい出で立ちのこの人物が椿部隊の元副隊長だ。
瑠捺が副隊長に就任した為、昇進して隊長になったのだが不満があるらしい。
自分は鏡華の側近であり、隊長ではないというのが椿の言い分で全権を委託しているのだが、真面目な隊長の意思が固く、最終決定権は椿にあるというかなり複雑な関係になっている。
これは全て椿が駄々を捏ねた結果なのだが、未だに責任逃れを続けている。
「俺は鏡華の隣にいるから、部隊の指揮は隊長と瑠捺に任せます!瑠捺も良い働きをするでしょう。それにうちの部隊は皆強いですからね」
胸を張る瑠捺に対して、隊長は大袈裟にガクッと項垂れた。
そんなやり取りを見ている隊員達の士気は高い。そう、この部隊は少数精鋭。椿に認められた者だけが、この特殊な部隊に身を置けるのだ。
そう聞くと誉れ高いもののように聞こえるが、要はめちゃくちゃ強いファンクラブだ。
隊員を激励した椿は隊長に全てを任せて鏡華の元へと向かった。




