第13話 部下
目を覚ますと見知った天井が目に入った。昨日の戦闘は覚えているが、帰還した事は覚えていなかった。
着替えを済ませ、中庭に行くと空璃と瑠捺が組み手を行っていた。瑠捺は昨日、鏡華との謁見を終え、軍へ迎え入れられていた。
今日も太陽が眩しい。
「おぉ!もういいのか?」
空璃の機嫌が良い。今の姿が女だからだろうか。
両腕の痛みは無くなっており、しっかりと持ち上げる事も可能になっていた。
「おはようございます、姫様」
「え、えぇ。おはよう」
瑠捺は椿直属の部下となり、椿同様に平時のみ警邏部隊所属になっていた。
鏡華曰く――「貴方が連れて来たのだから、貴方が面倒を見なさい」との事だ。
瑠捺は椿姫の身体を隅々まで観察している。特に何とも思わないが、あまり気分の良いものではない。
木陰で男の姿に戻った椿の後ろについて来て、やはり隅々まで観察するのだった。
「本当に身体が変わるのですね」
心底感動したような声色でそう言われると何とも返答し難い。ひとまず軍以外の人間には内緒にしておくように釘をさしておいた。
椿姫の後ろからついてくる瑠捺を警邏部隊の面々に紹介を行ったが、既に噂話として広まっていたようだ。特に何の問題もなく受け入れられ、町中を案内する事になった。
相変わらず椿姫の人気は高く、どこを歩いても話しかけられたり、手を振られたりするのが常だ。
こんな良い天気の日だ。何事もなく町案内が終わる事を願っていたが、こういう日に限って問題が起こる。
遠くから聞こえる声によると食い逃げのようだ。
「ほら、瑠捺。貴女の初仕事よ」
先程までと打って変わって、真剣な表情となった瑠捺は駆け出した。椿姫も後を追うがあっという間に食い逃げ犯は拘束されていた。
町での一件を片付け、次は部隊の挨拶へ向かった。部隊とは椿そして椿姫への信仰心が強い者だけの集まりである。
――もし俺が部隊を預かる事になったら来て下さいよ。
――貴方と一緒に戦場を駆け回りたいわ。
などと日々の鍛錬中に椿あるいは椿姫が声をかけたり、逆に希望した者の中でも強者のみで構成された少数精鋭遊撃部隊なのだ。
一応、椿は隊長という立場だが戦場では主に鏡華の傍らに居る事が多いので、代わりに隊を率いている男がいる。その部隊に瑠捺が加わる事になった。
瑠捺は他の者達と違い、椿姫に命を救われている為、誰よりも忠誠心が強い。それは隊員達も周知の事だった。
穏やかな日々が続き、いつでも出陣できる準備を進めていた一行に招集の伝令が送られてきた。
出陣の日が近付くにつれ一気に城内が緊張感に包まれる。兵士達が準備の最終確認をする中で椿を除く鏡華達は秘密の会議を行っていた。
「いよいよ椿のお披露目になるわね。他軍の反応が楽しみだわ」
「鏡華様。先の戦以降、諸侯達が椿を何と呼んでいるかご存じですか?」
「勿論知っているわ」
「では椿姫に対しては?」
鏡華はその事実を知らなかったが、村での一件で目立ち過ぎた結果だろうと結論付けた。
椿、そして椿姫の名が広まる事は大いに結構。ただし同一人物だと知られなければ良いというのが鏡華の考えだ。
今まさに椿の存在を世界に知らしめる戦が始まろとしていた。




