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第60話 脱出するという選択

 拘束された蓮は城内に設けられた牢屋へ入れられた。

 牢屋内でも目隠しや拘束具は外されず、冷たい地面に体温を奪われた。

 足音から察するに最低二人の看守が居る。

 城内の見取り図は頭に入っている為、拘束が解ければ脱出は可能だと思っていたが、人質扱いの七杏達の事を思うと安易な行動を取るべきでは無いとも考えてしまう。



 この世界に来た当初の蓮であれば、迷わず脱出を選ぶだろう。

 しかし、彼女達の存在は凰花 蓮を変えた。



 座り直すと看守の視線がこちらに向いたのが分かった。

 そして、その視線は江軍の者では無いと確信を得た。

 九条 幾斗の手の者であれば多少傷つけても良いだろうが、見つかった時に七杏達が何をされるか分からない。

 やはり蓮には大人しくしているという選択しか無かった。



 あれからどれくらいの時間が経ったのか。

 錆びた扉の開く音に続き、カツカツと軽い足音が近付いて来る。



「退け、九条の犬共。飯の時間じゃ。早う、鍵を開けろ」


 以前程では無いが、それでも豪華な衣服に身を包んだ一諾がお盆を持っている姿は全く似つかわしく無かった。



「小僧の拘束を解く事は出来ぬ。妾が食べさせてやるから、それで許せ」


 壁にもたれ掛かる蓮の前にしゃがんだ一諾は配膳された料理を箸で摘み、口元に運んだ。

 久々に食べる城の料理に懐かしさを感じつつ、空腹を満たしていく。

 食事も終盤に差し掛かった頃、一諾は蓮の耳元で囁いた。



「七杏達は大丈夫じゃ。頃合いを見て逃げろ」


 不自然にならないように、蓮の口に料理を運ぶ際にのみ囁き続けた。



「妾も城を出る。七杏はもう駄目じゃ。江軍は終わった」


 家族を見限るつもりなのか、貴女なら七杏達を支えられるだろう、と叱咤激励したい気持ちを押し殺し、蓮は料理を咀嚼した。

 蓮からは一諾の表情は見えない。

 しかし、その声からは無気力さが窺えた。



 食後、いつの間にか眠っていた蓮が目を覚ますと、ドサッと何かが倒れる音が響き、扉の鍵が解かれた。

 何者かの手が後頭部に触れ、目隠しが解かれる。

 蝋燭の小さな明かりでも目が眩んだ。

 ぼやける視界が明瞭になっていく。

 蓮の目の前には紫色の髪を持つ女性が立っていた。



「ッ!?」


 人差し指を口元に持っていく瑪瑙は素早く蓮の拘束を解いた。



「遅くなってゴメンね。さ、行こうか。あの女の人はもう城を出たよ」


「一諾さん…」


「どうする?ここから逃げるだけでも良い。目的を達する為に椿くんの元へ行っても良い。…この世界を救っても良い」


 瑪瑙は看守の男を牢屋内に入れて、蓮が着けられていた目隠しと拘束を施した。

 もう一人は布の下に隠し、扉に鍵を掛けた。



「行きましょう」


 以前、一蓮から教えてもらった秘密通路を進み、地下牢を脱出した蓮は五虎の部屋へ向かった。

 音を立てず室内に侵入し、五虎の口を塞いだ。



「五虎さん、僕です。一諾さんに何かあったんですか?」


「…蓮さん。やはりあの道を知っていたのですね。…叔母様は姉さんを失い、絶望の淵に立たされています。何をするか分かりません」


 蓮は窓を開き、瑪瑙が待つ場所へ向かおうとした。



「多分、叔母様はここに居ます。母様が亡くなった場所です」


 手渡された紙の切れ端を受け取った蓮が窓に足をかけると、五虎に服を引っ張られた。



「あと、これも…。兄さんが貴方は私の元に来ると」


「七杏さんをお願いします。必ず戻ります」


 用意周到な二猫と五虎に感服しながら、鞭刀『玉簾』を帯刀した蓮は解き放たれた矢の如く目的地へと向かった。

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