第58話 待ち伏せ
帰還した一蓮と蓮は身を潜め、大門の様子を窺った。
噂では江軍と伊軍の戦は終結し、同盟を結んだと聞いているが、町内がどのようになっているのか未知数だった。
「もしも僕が戻らなければ阿軍へ、椿さんの元へ向かって下さい」
「そうするかな。ニ猫や四蘭が居るとは言え、人質を取られているも同然かな。君も気をつけて」
一蓮は大人しく茂みで待機となり、蓮は一人で大門の前へ向かった。
蓮の姿に気付いた兵が門を開き、数人の兵に出迎えられた。
「凰花様、あの傷でご無事だったのですか!?」
「大将もご無事なのですか!?」
中には蓮と一蓮を荷台へ運んだ者も居り、大層驚かれた。
「僕一人だけです。誰でも良いので武将に取り次いで下さい」
一蓮の事は明言せず、城下町を足早に過ぎ去り、城へ向かった。
「やぁ。まさかあの傷で生きているなんてね」
城門を通り過ぎると腕組みをして立ち塞がる人物が居た。
「九条 幾斗。よくも、僕から大切な人の血を流したな」
あのような大怪我を負ったとしても、蓮の怒りの起源はさくらの血液だった。
自身がどれだけ痛めつけられようとも、今の蓮にとって守るべきは義母なのだ。
「ファザコンなの?マザコンなの?」
組んでいた腕を解き、大袈裟に呆れた仕草をする九条 幾斗。
「まぁいいや。伊と江は同盟関係にあるんだ。少し俺と話さないか?」
何か裏があるだろうと警戒しつつも蓮は九条 幾斗に従い、中庭へと移動した。
中庭に置かれた椅子に腰掛け、机に肘を突き、蓮にも着席を促した。
ここは以前、七杏と話して仲直りした場所だ。
思い出の場所で自分の腹に穴を開けた人物と会話するなど腹立たしい事この上ないが仕方ない。
少しでも情報を聞き出し、七杏達の安否を確認し、外で待つ一蓮の元に戻る。
これが蓮の任務だ。
「椿もしぶとかったけど、君も相当だね。君を飼っている江軍と手を組めて良かったよ」
「…何故、凰花 椿とは協力しないのですか?」
「勘違いしないで欲しいな。俺は阿軍を倒して、この国…。いや、この異世界を救わないといけないんだ。その為には江軍と協力した方が良いだろうと思ってさ」
九条 幾斗の声や話し方、話す内容は不覚にも心地の良いものだった。
先に椿と接触していなければ、彼に取り込まれていたかもしれない。
しかし、蓮と一蓮は殺されかけている。
蓮が神に匹敵する鳳凰眼を得ていなければ確実に死んでいただろう。
「では何故、僕と江軍大将を刺したのですか?とても、協力を得ようとしている人間のする事ではないと思いますが?」
「すまなかったね。椿は強力な能力を有しているだろう?だから君が椿に敵うのか知る必要があった。本気でかからないと君も本気を出せないだろう?」
椿から聞かされている話と異なる内容に少なからず困惑した。
どちらかが嘘をついている。
蓮にとってはどちらも信用できる人物では無い。
知人の息子である椿の方がまだマシかと言う低レベルの争いだ。
「それで、僕は貴方から見て合格ですか?」
「百点満点だよ。一緒に阿軍を倒して、世界を救おう」
差し出された手を躊躇いなく掴んだ。
しかし、まだ協力すると決めた訳では無い。
「その前に質問に答えて下さい。貴方は現実世界の住人ですか?どうやってこの世界に来ましたか?」
九条 幾斗の笑顔が消え失せ、握手する手に力が入った。
「凰花 蓮。腹の探り合いは止めにしよう。俺はこの世界を救う為に来た」
「誰の手引きですか?貴方は凰花の人間ではないですね。何者ですか?」
蓮も負けじと手を握り返し、冷酷な眼差しで告げる。
「…分かったよ。俺は現実世界の住人で、気付いたらここに居た。だから誰の手引きかは分からない。…俺は凰花と言う苗字は椿と会って初めて聞いた」
目の前の男が嘘をついているのか、正直に答えているのか判断は出来ない。
ここでどのような選択をするのが正しいのか悩み抜いた。
「君は何の為にこの世界に来たんだ?」
「…人を探す為です」
「僕よりも希薄な理由だね。だから、彼女を見殺しにしたのかな?」
「違う!一蓮さんはッ」
「だってそうだろう?この場に彼女は居らず、君だけがピンピンしている。彼女が生きているなら証明してよ」
蓮は怒りを露わにした。
九条 幾斗の手を机に叩きつけ、轟音と共に机が真っ二つに崩れた。
「この話、彼女の弟や妹は悲しむだろうね。君は彼女を救うと約束していたんだろう?」
怒気を抑えられなくなった蓮は立ち上がった。
九条 幾斗の腕を引いて身体を懐へ潜り込ませた蓮は、間髪入れずに第十の型、滝壺落としを繰り出した。
頭頂部から地面に叩きつけられた九条 幾斗の首は有り得ない方向に曲がっており、誰が見ても骨が折れていると判断しただろう。
「あーぁ。先に手を出しちゃったね」
グニャグニャの首で蓮を見上げる九条 幾斗が不敵な笑みで呟いた瞬間、物陰から数人が飛び出した。
九条 幾斗に気を取られ反応が遅れた上、飛び退こうにも手は握られており、足には彼の足が絡まり、全く身動きが取れなかった。
蓮に頭巾を被せ、地面に押し倒した者達は素早く手足を拘束した。
「ったく。手間かけさせんじゃねぇよ」
聞いたことのある声が耳に届くと同時に後頭部に激痛が走り、蓮は意識を手放した。




