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第55話 灼烙の力

―――――

――――

―――

――


 そこは霧が立ち込める場所で辺りは何も見えない。

 そんな場所に一人、膝を抱えて座る人物が居た。

 その瞳に光はなく、人形のように動かない。

 一点を見据えていた人物――凰花 蓮は突如として背中に重みを感じた。



『まさか本当に会えるとは思わなかった』


 心地の良い声が蓮の耳に届き、虚な瞳に光が宿った。



「…ここは!?」


 後ろを振り返ろうとする蓮に対して、先程の声は強めに制した。



『ダメだ、こっちを向くな。そのままでいろ』


 透き通りながらも、挑発するような高圧的な声の持ち主は少女だった。

 蓮は黙って従い、膝を抱えて座り直した。

 すると、自分と少女の後頭部、肩甲骨、腰が同じ高さにある事に気付いた。



『ここはお前の心の中だ。昔のお前なら絶対に到達出来なかった場所…と言えるな』


 ふわりと鼻孔を擽る優しい匂いがした。



「貴女はいったい?」


『それをわたしに聞くのか?酷い奴だな』


 単純な質問をしただけなのに嘲笑い、罵られた。

 しかし、ここで引くわけにはいかない。

 負けず嫌いな性格ではないが、何故が反発する気になってしまった。



「何故、僕はここにいる?」


『それは紅爛鳳凰眼を開眼したからだ』


 蓮の手に力が入った事は背中越しに少女へと伝わった。



『でも、お前は制御出来ない。これは断言できる。この先も制御は出来ない』


「僕が根源に至っていないからか!?」


 蓮の怒声は何もない空間に響いたが、少女の諭す声がそれを掻き消すように紡がれた。



『だから、"灼烙の力"を得たのだろう?』


「…灼烙シャクヤ?」


 聞き慣れない言葉の意味を問うつもりで繰り返した。



『あの女に使っただろう。局所的に対象者の未来を灼く瞳術。凰花さくら、あの女、そしてお前の共同合作。それが灼烙だ』


「…灼烙。それがあの能力の名前」


「まぁ、今、わたしが名付けたのだがな」


 大真面目な話をしているつもりだが、少女は真面目な声色で適当な事を言い出した。

 顔は見えないが、その適当さから無表情で冗談を言えるタイプの人間だと容易に想像出来た。



『とにかくお前に紅爛鳳凰眼は扱えない。それは根源がどうとか、そんな簡単な話じゃない』


 蓮は背後からの声に耳を傾けながら、左瞼を撫でた。



「君は僕の身体を使った事があるな」


『あぁ。折角、目覚めたのだ。身体を動かしたくもなるだろう?』


 少女が脱力し、背中の重みが増した。



『わたしはずっと一人でここに居た。お前がわたしを見つけるまでな。初めてお前に会えたのだ。気分も昂ぶると言うものだろう?少しくらい許せ。それに損はさせていない筈だ。寧ろ、有益な情報を与えたつもりだが…?』


 あの時の事は鮮明に覚えてる。

 自分の身体が勝手に動いている異様な感覚で、それを客観的に観察しているような不思議な体験だった。



「僕に玉簾の使い方を教える為?」


 少女は無言で更に脱力し、二人の後頭部がコツンと触れ合った。



「何故、そんな事が…。君は一体…」


『さぁな。お前が力をつけ始めれば、わたしに近付く。だが、それは終わりを意味する』


「なに?どういう意味?全然、理解できない」


『あぁ、だろうな。今は紅爛鳳凰眼に拘るな。灼烙の力があれば、必要ない。無駄に人を殺めたくはないだろう?』


「それはそうだけど…」


 蓮の手の甲に少女の手が重ねられた。



『許せ。伝えたくても、伝えられない事ばかりだ。わたし自身もどかしい。だが、安心しろ。時が来れば、全てを知る事になる。わたしとお前は一つだ』


 その声からは先程の適当さは無く、申し訳ない気持ちが溢れていた。

 蓮は手のひらを返し、少女の手を握った。

 背後では小さく微笑む声が聞こえ、蓮は目を閉じた。



『ついでにお前が忘れている会話を思い出させてやろう。きっと役に立つぞ』


 その言葉を最後に二人の背中は離れた。

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