駿弥くんからの要請
貴斗視点です
「駿弥くん、お待たせ。」
店内で1人、カフェオレを飲む駿弥くんを見つけ、手を上げて呼び掛ける。
今日は駿弥くんが俺を呼び出して話をしたいらしい。春休みに入ってからすぐの連絡に、俺は景介と初音を連れて待ち合わせ場所に来た。なんの話をされるのか、少し楽しみではあるが、嫌な予感もしている。
「先パイ。急に呼び出してしまってすいません。宇咲さんも会長も、来てくれてありがとうございます。」
「いーよ。用ってほど用もなかったし。話だよね、ここでする?」
「はい。俺はここで構わないと思っています。」
「そ。初音、何か頼む?」
「私はココアで。」
「ん。すいません。コーヒー2つとココア1つ。」
注文を告げ、品が来るまで4人で軽い会話をする。駿弥くんも近況に変わりはなく、恙無く過ごしていたようだ。襲われたあの日以来、周囲に警戒するように言っておいたが、何もなかったようでよかった。
注文も揃った頃、どちらからともなく本題に入る。
「……先パイに、ご教授していただきたいと思いまして。」
「……へぇ。で、俺は何を教えればいいのかな。」
真剣な目で俺を見てくる駿弥くんに、俺はニヤリと笑みを返した。
襲われた日から、駿弥くんが時折深く考え込んでいる時があったのは知ってる。それから考えれば、2つに1つだ。
「俺に、護身のための武術を。」
「……やっぱりね。この前から、ずっとそれ考えてたの。」
「はい。先日のようなことが、先パイのそばにいれば日常茶飯事なのだと、理解しました。自分の身を最低限守る。これは、俺の為すべき努力義務です。」
駿弥くんの言葉に、どうするのが双方にとって最善か考えた。
俺の中での最善は、駿弥くんとはこれ以上は距離を詰めず、むしろ適度に距離を取り、こちらには巻き込まないことだった。しかし、駿弥くんにとっては違うらしい。俺と距離を取るつもりはない。ならば、駿弥くんの身を守るために、俺は何をするべきか。
「……駿弥くんは、俺の世界に残るつもりなんだね。」
「少なくとも、自ら出ていくつもりはありません。先パイの側にいたい理由が、俺にはあります。」
ちらりと初音の方に揺れた駿弥くんの目に、胸の奥がチリッと痺れた。危惧すべき事態になってしまったようだ。
……仕方ない。これも、俺のしなければいけないことなんだろう。駿弥くんのこと自体、存在を知ってる奴はこちらの世界にも少なからずいる。手遅れになる前に、やってしまった方がいい。
「……はぁ。駿弥くん。場所、変えよっか。」
「……どちらへ?」
「君を、俺の家に招待するよ。」
茶戸家に、顔見せをしなければ。
俺の言葉に、駿弥くんは想定外だというように目を見開いた。初めて見る駿弥くんの崩れた表情に、なんだかおかしくなって笑えてしまう。
「……俺を、茶戸の本拠地へ連れていってくれるんですか?」
「んー、それじゃあ、ちょっと語弊があるかな。俺の家は親父……俺の父さんが新たに興したとこ。本家じゃなくて、分家筋の扱いね。茶戸の本拠地じゃあない。まぁもっとも、そう遠くない内に本家と同一化するとは思ってるけどね。」
「……なぜ、ですか?」
「駿弥くん、君はもうすでに、こちらの世界に片足突っ込んでる自覚はある?」
 




