慣れたこと
貴斗視点です
「茶戸家の若頭だな。」
「そーだよ。困るなー、俺忙しいんだから、ちゃんとアポ取ってくんないと。どこのどちらさん?」
「年末の損害、きっちり耳揃えて返してもらおうか。」
「あぁ、君たちか。まったく、弱者は礼儀がなってないよね。それに、損害って。どう考えても、損害出したのはあんたらのお粗末な頭のトップがやらかしたのが原因でしょ?俺に責任擦り付けないでよねー。」
薬取引に手を出して、それを隠しきるだけの頭もなく、邪魔立てされた取引を成立させる腕もない。責めるべきは組もまともに経営させられない上層部だというのに。それすら分からない奴等だから仕方ないのか?弱肉強食のこの世界で、食われた弱者が強者に対して糾弾するなんて、生意気すぎ。
俺の台詞に奴等は顔を赤くし、激昂して武器を構え、俺に向けてきた。
かかった。狙い通りに標的を俺に絞れたことに内心安堵し、改めて俺も構えた。
「久しぶりの喧嘩、楽しみだなぁ。精々俺を楽しませてね。」
俺に向かってくる奴等にいつもの笑みを見せ、俺は拳を握りしめた。
早々にチャカを持っている奴を沈め、他の3人も順調にボコボコにしていく。やはり手応えはない。茶戸貴斗を襲撃しに行くというのに、4人でチャカも持たせてもらえない奴の実力なんて高が知れてるけど、残念だ。
「あーあ、つまんないよねぇ。ねぇ、君たちさ、本気で自分等が俺の相手できると思って来てんの?それとも何。足手まといがいるとでも思って来たの?それは舐めすぎじゃない?ねぇ。」
四肢を折り、頼みの綱である武器も遠くに放り投げられた今、男たちは情けなく震えていた。俺が今目を合わせている奴なんて、気絶してしまいそうなほどだ。いっそ哀れに思う。
何も話さない奴等に痺れを切らし、とりあえず家に連絡する。今日は危ない場面にも遭遇させたことだし、2人を送るための車も用意させよう。
「はー、終わった終わった。景介、もういいよ。初音、駿弥くん。大丈夫だった?」
「はい。会長もいましたし、貴斗さんが守ってくれるって思ってましたから。貴斗さんもけがありませんか?」
「もちろん。俺は大丈夫だよ。駿弥くんごめんねー。急にこんなこと巻き込んじゃって。」
「……いえ。」
俺の問いかけに、駿弥くんは呆然としながら頷いた。処理落ちのようなそれを見て、俺は内心苦笑しながら仕方ないか、と思った。
初音もそうだけど、今までこういう世界とは無縁だった普通の男子高校生だったんだ。高校生の俺1人に大の大人がナイフやら銃やら持って4人がかりで襲ってきたんだ。異常性に放心してもおかしくない。
「……先輩は、」
「うん?」
「先輩は、喧嘩が強いと聞いてましたけど……それ以上なんですね。」
「んー?そう?これくらいよくあることだし、俺にとって喧嘩の範疇だけどね。仕事の一環でもあるのは確かだけど。」
あっけらかんと俺がそう言うと、駿弥くんは驚いて俺を見てきた。
「これが喧嘩なんですか?」
「そーだよ。」
俺は幼少の頃から常に裏の世界の中で注目され、時に命を狙われてきた。その動きが派手になったのは、小学生の低学年から。それからずっと襲われてきたから、こういったことには慣れている。幸いにも、俺はそれに怯える質ではなかったからよかったけど、それでも襲われることに対するストレスはあった。
敵対組織からの刺客だから、情報を得るように考えて対処しなければいけなかった。それは、まだ当時幼く、加減や分別のできなかった俺には難しかった。親父にずっと護身術や武術を仕込まれてきたから、大ケガをすることはなかったけど、倒していい相手と家で情報を話させる相手の区別はつかなくて。それが分かる大人を待つため防戦一方にしておくのは案外大変だった。
そしたら、親父が俺に、”雑魚どもに襲われたら、それは喧嘩と思って遠慮せずやっていい。お前が倒しちゃいけないのは、繋がりを仄めかしてきた奴、銃火器を持ってる奴、後ろで突っ立って命令してる奴だ。”と簡単な区別をつけてきた。それはその時すでに喧嘩に目覚めていた俺にとって、福音に等しいものだった。
今はさすがにそこらへんの区別はつくけど、基準の1つであることは間違いない。今日の奴等だって、背後はもう割れているし、銃を持っていても、どう見ても扱いに慣れていない下っ端だった。幹部格もいない。よって、奴等は俺の中で喧嘩相手だったというわけだ。
そう言うと、駿弥くんは信じられないといった顔で俺をまた見つめてきた。
「こんな……警察沙汰になるようなことが、日常だったなんて……。信じられません。」
「俺も楽しんじゃってるからね。それに、有名税だよ。いずれ、この世界を統治しうる者としてのね。まぁ俺自身、囮だと思ってるから、むしろ来てほしいんだよね。下手に一般人巻き込むより、慣れた俺が対処した方が安心でしょ?」
一般人が犯罪被害に巻き込まれるくらいなら、俺が元凶を潰した方がいい。
事も無げにそう言った俺を、駿弥くんは息を飲んで見ていた。
次話から駿弥視点が始まります