敵わない先パイたち
駿弥視点です
先パイは、思っていた数倍すごい人だった。
先日の襲撃の際に聞いた言葉を思い出し、俺は改めて思った。
普段は飄々としてて、一見人をおちょくっているような態度だけど、それは先輩が本当に真剣に取り組むべきことが、俺が一緒にいる場面になかっただけなんだ。
「……。」
先パイにとって、学業なんて本当に趣味の範囲で集めた知識だけで事足りるものなんだ。俺が必死に集めた知識すら、先パイにしてみれば、片手間に集めたもの。
初めて、勝てないと思った。努力しても、きっとあれには到達できない。
……宇咲さんがあそこまで心酔するわけだ。
目の前で先パイと楽しそうに会話する彼女を見て、ぼんやりと思った。
彼女は現状、俺のクラスメートで生徒、のようなものだ。愛想のない俺に、クラスでも唯一普通に話しかけてくる子。
だから、他のクラスメートと比べて、相対的に、特別なだけだと思ってたのに。
「バカかよ、俺は……。」
2人の後ろ姿を自嘲する俺に、会長が話しかけてきた。
「我が校自慢の秀才くんは、また物思いに耽っているのかな。」
「……いえ、そういうわけでは。」
この人も、すごい人だ。いつもの議論の場では先パイに譲っているようだが、スペックやポテンシャルは先パイと同等のものを感じる。宇咲さん曰く、会長選も前会長からの推薦で、圧倒的な大差で選ばれたというから、人望も厚い。俺はきっと、この人にも勝てないんだろう。
「駿弥くんは物事を複雑に捉えがちだね。俺からしたら、もっと気楽にしてもいいと思うけど。」
「……気楽、ですか。……敵わないな、と。思ったんです。」
「……貴斗に?」
「お2人に、です、会長。先日のこと、思い出したんで。」
「あぁ……。怖かったでしょ。普通高校生を大人が襲うなんてないもんね。」
怖かった、は怖かった。人からの殺意、害意に脅かされたことなんて、今までなかったから。でも、俺があのとき思ったのはそうじゃなくて。
「あれをいつものことと言える先パイが、俺とはまったく違う土台でモノを見ている先パイが、恐ろしいな、と。17歳にして、何を経験したらそんな考えになるのか、分かりません。」
あの凶事をいつものことと言うなんて、物騒なことに慣れすぎだし、自己を犠牲に他者のことをあそこまで省みられるなんて、およそ高校生らしくない。
俺がそう言うと、会長は苦々しい表情を見せた。
「あいつは……自分の持つ力を、正しすぎるほど正しく認識してるんだよ。知力も、武力も、影響力も。」
「……確かに、先パイの持つ力は絶大そうですよね。大人でも敵わないほどの知力、武力。先パイのいうアンダーグラウンドの世界での後ろ楯も含めた影響力。まるでドラマか映画のようなチートさを感じます。」
「ほんとだよね。でも貴斗にとっては、それが自分の世界での日常で、けして特別なものじゃない。誇示するものでも、他者を見下すものでもない。」
「はい。先パイから、自分が特別選ばれた存在だと思っているような傲慢さは感じませんから。」
「うん。でも、それでいて、他者にとっては特別で選ばれた存在に見えることもちゃんと分かってるんだよね。これも慣れだろうね。理解してるっていうより、経験上推察してきたって感じ。」
痛ましそうな顔で先パイを見つめる会長は、何を思っているのか。俺はそっと会長を見つめた。
会長は、先パイの幼馴染みだという。長年、隣で隔絶した能力を持つ先パイを見て、何を思ってきたんだろう。危険な環境に身を置く先パイに、何を思ってるんだろう。
俺から見た会長は、純粋に先パイのことが好きで、友人として隔意も何もなく接しているように見える。でも、あれほどの人物を前に、何も感じないなんて、あるんだろうか。俺だって、嫉妬心や敗北感を日々感じているのに。
静かに先パイを見つめる会長の目は、ただひたすらに先パイを信頼してるように感じられた。




