米の炊き方を覚えよう。その一
「とりあえず米と塩と醤油買ってきて。」呆れながら俺は言った。
なんだか良くわかってないようだが、「米と塩と醤油だな!分かった!」
と別荘を飛び出していった。
しかし、ぬいぐるみが料理なんて考えた事も無い。幸い何故か炊飯器やオーブンに電子レンジはあるし、フードプロセッサーまである。きっと、昔来た時に、使ったのだろう。
俺はキッチンの水道に何とか登った。
間近で見ると、広い。人間である時は気にしないがとてもぬいぐるみになると、広く感じる。何しろこの大きさだからな。
これじゃ俺は動けない。仕方ない。倭斎隗に教えるか。はぁ……
暫くして倭斎隗が帰ってきた。片手に米の袋、もう一方の手に袋を持っている。
俺はその袋から塩を取り出そうとしてみた。しかし、袋の口は狭く、取り出せない。
「ほら、無理すんなよ。20cmぐらいしか無いんだからさ。」
そうなのだ。俺の大きさは20cmぐらいしかなく、出来ない事も多い。今更、それに気づいた。
「で、塩をどうするんだよ。」
倭斎隗は塩の袋を不思議そうに見ている。
「その塩はとりあえず置いといていい。まず、米を炊く。」
俺はそう言った。袋から抜け出せたのでまだ床だった。
「炊く?炊くって何?」
倭斎隗は俺をテーブルに掴んで置く。ちょっとだけ掴む力が弱くなった気がする。
「とにかく!とりあえずやるぞ!ほら!」
と、炊飯器を指さした。
「蓋を開けて、釜を取り出す!早く!」
言われた通り、料理初心者は釜を取り出した。
「その釜にさっきの米を半分ぐらい入れて!」
言われた通りに米の袋を開けて、中の米を釜の中に入れた。真っ白な米粒が黒い釜に入ってくる。早く炊きたい。そう思った。
しかし、俺は気づいたのだ。
「って!その米、10kgじゃないか!そんなにどうするんだよ。」
米の袋にはしっかりと"10"の数字が書いてあった。紛うことなき10kgである。
「持ち帰ればいいんじゃないか?家使用人多いしさ。」
「そうしたら、逆に10kgでは足りん。30kgは無いと。」
「ふ〜ん。難しいんだねぇ。」
釜をまだ持ってる。次の作業が分かんないとは……
つくづく呆れる。
「そしたら、その釜に水を入れて。」
すぐに水を入れた。
「そしたら、その水で米を洗うよ。濁るまでね。」
でも、倭斎隗 は洗うと言ってもピンと来ないらしい。水が入った釜の前で困った顔している。
「ちょっと。持ち上げてくれる?」俺は言った。
ひょいと持ち上げてくれると、台所って高さがあるなと知ることが出来る。ぬいぐるみに不親切な設計なのだ。
「よっと。さて、洗い方なんだけどね。」俺は釜を指さした。
「洗うとゆうか一般的には研ぐって言うんだ。だからこうして切るように掻き回すんだ。」
手をぐるりと回してみた。説明がしにくい……
「なるほど。」と倭斎隗 は米を研ぎ始めた。うんうん。初心者にしてはなかなかじゃない。
「研ぎ終わったら、その水を捨てるんだ。もちろん、米は捨てちゃだめだよ。手を当てて、流れないようにするんだからね。」
偉そうに言ってみる。基本で威張れるなんて幸せなんだろうか。なんだか心がほわんとした。
倭斎隗 は米を長さない様になんとか頑張っている。懐かしいなぁ……俺が初めて一人暮らしした時。
ん……一人暮らし?あれ?なぜか思い出せない。そもそも一人暮らしなんてしてたっけかな?
「で、流し終わったらどうすんだ?」
あっ!つい変な事をしてしまったようだ。
「また水を入れて、四回ぐらい繰り返すんだ。面倒だけどね。」
めんどくせ〜みたいな顔しながら、米が半分ぐらい入った釜にまた水を入れた。意外と真面目である。
「五回目の水は捨てないんだよ。米よりちょっと多いぐらいに水入れてね。あと、俺を窓に置いてくれない?」
今、してる作業をピタリと止めて倭斎隗は俺を窓に置いた。
窓からはもう、星空が見える。生きててよかった。




