第一の支配者
_退屈だ。
いや、退屈と思っているから退屈なのか?そうなのか?
しかし、仮に今退屈だと俺が思わなくても退屈な事には変わりなく、現にバックの中が窮屈である事には変わらない。
こんな場所に居ると、プラトンのイデア論を思いだす。この窮屈でどこか息苦しい世界を抜けると、素晴らしいイデア界が広がっている考えるである。確かに前世の記憶はあるが、イデアの記憶等覚えちゃいない
何しろぬいぐるみだからな。
チャイムが鳴った。てかチャイムなるんかい。
不意にバックが持ち上げられる。移動するって訳だ。
チャックから顔を出したい所だが、人が多すぎる。辞めておこう。
バックは揺れる。中は俺以外入っていないのでぶつかる。痛くは無いが、なんとなく嫌だ。
「ちょっと。揺らさないでよ!」と精一杯の小さな声で言った。だが、小さな声は周りのnoiseに消され、聞こえなかった。
これからどこへ行くのだろう。尻尾を何となく振った。
「秋刀魚定食を一つ。あと、パインジュースと牛乳を」
この声は倭斎隗だ。
かしこまり!っとオーダは厨房に通された。
不意にバックのチャックが開けられて、頭ごと掴まれた。子供を掴むが如くである。
俺は言った「ぬいぐるみが喋ってるのを見たら、学校中がパニックになるんじゃ?」
倭斎隗は椅子から反りながら笑う。
「見ろよ。ここの奴らみ〜んな馬鹿だから食べるのに夢中で気づいちゃいねぇぜ。ま、変な噂を流したら俺が消すけどな。」
消すとな!やっぱりなんか怖いよ、この人!
そんな話をしてる内に料理とジュースが運ばれてきた。
秋刀魚は見たことがないぐらいに美味しそうだし、米は作り物じゃないかと言わんばかりにキラキラしている。有り得ない……俺が高校生だった時の焼き魚定食は半分焦げてたし、米なんて味気にした事も無いのに。
しかもだ、「っ……うま!」美味である。学食のレベルじゃいな。と勝手に思った。
倭斎隗はパインジュースをガブガブと飲んだ。慣れた味なのだろう。まったく美味しそうでは無い。
どうせ牛乳も……いや、まさかの?
やっぱり美味しかった。泣けてくるぐらいだ。
俺は指をペロりと舐めた。さっきの塩が付いたわけである。歯はくれないくせに舌はくれるとは……やっぱり、いやいや辞めておこう。
気づいたら、秋刀魚定食が無くなっていた。
「ね?これってどれぐらい?価格さ。」
それには返答がすぐ返ってきた。
「1700円。」
それを聞いて、テーブルから落ちそうになった。
1700円って、さっきの焼き魚定食は410円だぜ……
この世界なかなか慣れんな。はぁ……
こうして、お昼を食べ終わった俺達の傍に誰か来た。女性だ。すぐさま俺はぬいぐるみの振りをする。
「あら、あなた鶯谷倭斎隗さんじゃないですか。」
「おう。膳鵞尹 里寝安じゃねえか。何の用だ?」
「いえ、あなたがぬいぐるみを持ってるなんてなんとも奇妙な事だと思いましてねぇ……」
その女性は俺の目を見た。
「しかも、可愛らしい。奇妙以外ではありませんか?」
「だならなんだってんだ?」
女性はくるりと振り向いた。
そして、指でピースをしながら去ってゆく。
「なんか怖いね。」と俺は言った。時刻は太陽が一番高く昇る時刻だった。それにも関わらず、あの女性は月みたいだったのだ。
「膳鵞尹 里寝安 、覚えといた方がいいぞ。」との助言に素直に従うことにする。




