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駆逐艦「スタンフォード」の艦橋で、トスカは絶句していた。潜水艦一隻に対して駆逐艦二隻が戦闘不能になり、さらにはこちらに向かってきているのである。


「護衛を先行させたのが間違いだった・・全艦戦闘配置!輸送艦は、原爆艦載艦を中心において輪形陣に移れ!ソナーは警戒態勢!早くしろ!」


艦橋に復唱や報告の声がし、船体は移動する兵によって震動した。


「全員、配置に付きました!」


「・・・後は、敵を待つだけか・・・」


トスカは、沖縄の方向を見た。水平線の上には何も無い。ただ、空には満天の星空が覆っていた。



そのころ、伊四九では夕食が配られていた。この日は、火曜であるにもかかわらず、カレーであった。


「頂きます!」


山本は、目を輝かせて言った。山本は大のカレー好きであった。


「艦長、こんな時でも楽しそうだな・・・ある意味才能なんじゃないのか?」


副長が苦笑いをこぼした。他の人もつられて笑った。その時、聴音長が叫んだ。


「艦長!1時の方向にスクリュー音多数!敵輸送船団です!速度15ノット!距離3万!本艦の方向に向かってきています!」


「よし、戦闘配置に付け!現在の深度は!?」


「深度30!速力4ノット!」


「メインタンク、ちょいブロー!潜望鏡深度まで浮上!面舵30度!」


「潜望鏡深度です!」


山本は、潜望鏡を覗いた。一隻の駆逐艦を先頭に、九隻の輸送艦が一隻の輸送艦を囲っている。


「艦首魚雷発射管、射撃用意!」


その時、カーンというソナー音が2、3回した。


「魚雷、発射!」


下から鈍い音がして、続いてスクリュー音がした。駆逐艦が取り舵を取って右側に動いていく。


「全魚雷、正常起動!」



「トスカ艦長!スクリュー音8!魚雷です!」


「回避!全速前進だ!回避後、取り舵一杯!」


「スタンフォード」が、魚雷の軌道を避けた。が、後続の輸送船が取り残された。九五式酸素魚雷はそのまま直進し、三隻の輸送船に数本の水柱を生じさせた。



「魚雷命中!三隻が撃沈します!」


「次弾装填急げ!駆逐艦が来るぞ!潜舵、最大俯角!深さ60へ潜航しろ!」


潜望鏡から目を離して命令した。潜水艦が、艦首方向に傾き始めたとき、カーン・・・カーンと言う音が伊四九を叩いた。


「駆逐艦、真上に到達!続いて海面に着水音、爆雷です!数、18発!」


「総員、対衝撃用意!爆雷が来るぞ!」


伊四九の誰もが上を向いた。そして数分後、伊四九の周りを火球が覆った。



先ほど、爆雷を投下した位置に水柱が立った。が、いくら経っても重油や浮遊物が上がってこない。


「仕留め損ねたな・・・輸送船団に連絡しろ。先にオキナワに向かえ。潜水艦は足止めする、とな。」


トスカは、敵が息を潜めているであろう海中を見つめた。何処までも黒く、深い海が見つめかいした。



「被害報告、急げ!」


(後方兵員室浸水!艦首魚雷室で3名死亡!)


(「回天」が一隻外れました!搭乗口から浸水!他にも多数浸水しています!どんどん深度が下がっていきます!)


「メインタンクブロー!浮き上がれ!」


タンク内の海水が放出されていく。が、船体は浮き上がることなく、その場で停止した。


「浸水はまだ止まらないか!」


(後、1分ください!必ず止めます!)


「聴音、駆逐艦は?」


「艦の上方で停止した模様。輸送船団は低速ですが、沖縄に向かっています。」


山本は歯を食いしばった。


「・・・副長、艦内マイクを付けてくれ。」


「了解しました。」


副長が、艦内マイクのスイッチを付けた。


「乗員全員に伝える。今、我々の置かれた情況は、敵に頭を抑えられて目標を逃そうとしている。だが、この艦を沈めるわけにはいかない。俺が道を開く。副長に指揮を変える。諸君は生き残る事を考えろ。」


山本は、艦内マイクを切った。


「副長、指揮を変われ。」


「・・・艦長、回天を使う気ですか。」


「そうだ。若い者を殺してたまるか。」


山本は、艦内部に下りるハッチに手をかけた。


「・・・艦長。」


副長に呼ばれ振り向くと、その場にいた全員がこちらに敬礼していた。


「・・・指揮、変わります。どうか、お気をつけて。」


山本は、微笑して艦内に降りていった。



「潜水艦の動きはどうだ。」


「先ほどと同じ位置で停止しています。」


持久戦か・・・そうトスカが思った時、ソナー員が叫んだ。


「敵艦より、高速スクリュー音!これは・・・」


「「カイテン」か・・・全速前進!爆雷投下「駄目です!間に合いません!」」



「アメ公!今まで死んでいった英霊の無念、晴らしてくれる!」


本当なら、水上に出して潜望鏡を覗いた。ちょうど、月光が敵の影をはっきりとさせていた。


「うおぉぉぉ!」


山本は、昔の事を思い出した。15歳の頃、初恋をした相手。海軍学校で同期になった戦友。戦争が始まり、喜ぶ戦友の中で一人喜ばなかった自分。そして、先ほどまで一緒だった伊四九の乗員。

全てが懐かしい、と思った。が、その思考も直後に消え去った。



「スタンフォード」は、竜骨に「回天」の直撃を受け、艦の中心に向かって沈み始めた。トスカは、艦橋から脱出しようとしたが、窓から入った海水によって押し戻され、艦と運命を共にした。



伊四九は、原子爆弾を乗せた輸送艦を含めた7隻を撃沈。次の日に終戦を伝えられて呉に帰航した。戦後、伊四九はハワイの沖で沈没された。原爆を沈めた真実も一緒に葬られ、存在も消された。



*この物語は、この潜水艦に乗っていた「回天」搭乗員であったという、鈴木定一によって証言された物である。N○Kの特別番組「伊号第四九潜水艦~原爆輸送を阻止せよ!~」より

伊四九という潜水艦は居ませんのでご了承ください。


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