5 逆怨み
秋帆の唇から、何度目か分からぬ溜め息が零れる。
彼はとぼとぼと、帰り道をひとりで歩いていた。
発見した手袋は花澄がコンビニのビニル袋に入れて持たせてくれた。直に触るよりは幾らかましだが、それ自体が気持ち悪い気配を放っていることには変わりない。
砂が詰まったペットボトルを持っているような、得体の知れぬ重さがあった。
あの後、美雨はずっと啜り泣いて話にならず、花澄はそんな彼女をひとりにしてはおけないということで、そのまま泊まることになった。
秀は何も言わずひとりでさっさと帰ってしまうし、結局、残った秋帆が黒手袋を押し付けられてしまったのだった。
秋帆とて、こんなものを手元に置いておきたくはないが、美雨のあの様子を見て嫌だとは言い出せなかった。
彼女が落ち着いたら、この黒手袋をどうするか連絡すると花澄は約束してくれたが、厄介事を押し付けられたことに変わりない。
予想通りの展開に、幾度目か知れぬ溜め息が溢れる。
「どうしよう、これ……」
アパートに持ち帰るには気味が悪いし、善からぬものを呼び込みかねない。
となると、駅のコインロッカーに預けておくのが無難だろうか——そんなことを考えながら歩いていると、不意に背中を針で刺すような痛みがして、全身に鳥肌が立った。
——悪意だ。
一瞬にして、秋帆の肉体と精神は恐怖に支配された。
視えるせいで何度も怪奇現象に遭遇したことのある彼だったが、これほどの悪意を向けられたのは初めてだった。
「——……ッ!!」
頭で考えるより先に身体が動いて、ビニル袋ごと革手袋を脇の川へ投げ込んでいた。それでも内臓から沸き上がる怖気が骨を、筋肉を、がちがちと震わせる。
一刻も早くこの場所から離れなくては——その一念が彼の脳を支配し、いつの間にか夜の町を疾駆していた。すれ違う人には不審者と思われるだろうが構うものか。この暗さでは顔など解るまい。
そうして無我夢中で走り続けて、駅舎の明かりが見えたときの安心感たるや、言い表せないものだった。
息も絶え絶えになりながらベンチにようやく腰を下ろした途端、全身が痛み出した。
何百メートルか分からないが、短くない距離を全力疾走したのはいつ振りだろうか。喉から気管、痛覚のないはずの内臓までも痛い。酷使した足の筋肉は言わずもがな。
元より、徒競走は得意ではない。急に激しい運動をして筋肉が痙攣しているのだろう、手足の震えがなかなか治まらない。
立ち上がることさえ困難だったが、一刻もはやくここを去りたい秋帆は、痛みに震える足を引き摺りながら改札へ向かった。
——もう二度とこの土地を訪れるまいと、決意しながら。




