15 灯火の子 ≪二日目 早朝≫
彼は未明の街を闊歩していた。
昨日の今日で堪え性のない彼だが、これはもはや食欲に限りなく近いものだから、仕方がない。
飢えるのだ。
それにしても、至るところにある街灯が煩わしい。彼は照らし出される存在ではなく、彼自身が輝き光る存在。
それ以外の灯りなど、この世界に必要ない。
彼は特別だ。
恵まれた才能がある。
いまはまだ小さくて弱々しい灯火だが、何れは太陽のように遍く凡てを照らす光となるだろう。
——否、ならなくてはいけないのだ。
そのために惜しまぬ努力をしている。
しかし、灯火を大きくするためには、もっともっと燃え種が要る。
灯火から炎へ成長するためには草や小枝を踏みつけて、森を飲み込み、やがては太陽として天に昇るのだ。
ところが、それほど貴い彼から、小枝を奪った枯れ枝が現れた。
彼以外の凡ては燃え種だ。己の存在を輝かせるためだけに存在を許されているにも関わらず、その邪魔をした。
だがいまはまだ小さな灯火でしかない彼は、その場では怒りを抑えることしかできなかった。あまりの悔しさに、あの顔を脳に焼き付けた。
気に入りの小枝を奪ったのだ。取るに足らない枯れ枝と見逃すことはできない。
次に会うときまでに、彼がもっともっと激しく燃え盛る炎に成長していれば、あの枯れ枝もくべて灰になるまで焼き尽くしてやろうと心に決めた。
それほど罪深いことをしたのだと、知らしめなければならない。
彼は片手に持っていたペットボトルを開けると、新聞の束に液体を掛けた。独特の臭いが鼻腔を突き刺す。
金属の蓋を親指で開き、手の中に小さな小さな火を灯した。その弱々しく自信なく揺れる様は、まさにいまの自分。
その灯火を、濡れた新聞紙の端へ移した。
最初は戸惑うように揺れながら、徐々に炎は這うように広がっていく。
それと共に、彼の下半身にも甘い疼きと熱が広がっていく。
知らず、彼は穏やかに微笑んでいた。
——にゃあ、
彼は後ろを振り返った。
しかし、後ろには街灯の人工的な光が見えるばかり。
「…………」
ライターの蓋を閉めると、カキンと澄んだ音が響いた。
彼は彼の分身である炎を置いて、そこから静かに立ち去った。




