先
ライターの小さな炎を見ていると、深い安堵が心を充たす。
掃き集めた枯葉を燃やして焚き火を囲んでいると、心が弾みだす。
畦道を這い、少しずつ燃え広がる炎を眺めていると、凡てから解放されるような心地好い気分になる。
炎は自分にとって数少ない味方であり、唯一の救いだ。炎を『それ』と呼ぶには抵抗があるので、『彼女』と呼ぶことにしよう。
いまの『彼女』を恐ろしいと思ったことは一度もない。だが、一度として『彼女』を軽んじたこともない。
猛獣を友とするがごとく、細心の注意と警戒、そして敬愛を以て親しんでいる。
決して、飼い慣らそうなどと思ってはならない。犬のように従順ではなく、猫のように気分屋で奔放な『彼女』は、自分を下僕くらいにしか考えていないだろう。
だが、それで良い。
これほど魅了されているのは、かつて『彼女』に救われた恩があるからだ。
彼が燃えている姿を見たとき、それは呪縛から解放された瞬間だった。
悪に罰は降る――溢れる狂喜から笑いを堪えることができなかった。
その時から、『彼女』は自分にとってなくてはならない救いであり、友であり、絶対的な存在となった。
だから『彼女』を軽んじて、『彼女』を弄ぶような奴は、絶対に赦せない。
それに、もう一人の恩人とも犯罪を見て見ぬふりすることはよくないと約束をした。
『彼女』とは違って、すこし頼りない彼の姿を思い出し、思わず笑みが溢れた。
――今日も夜な夜な街を練り歩く。
『彼女』を傍らに、『彼女』の食事を探して歩く。
ポケットのなかのライターの蓋を閉めると、カキンと小さな金属音がした。
それに応えるよう、にゃあと『彼女』の鳴き声が小さく響いた。




