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「本来通るべきものが正しく通らない──こうした理不尽に抑圧された状況が、人にとっては本当に強いストレスにもなる。そして、そうした閉塞や歪みを創り出しているものへの怒りや攻撃衝動もそれによって錬成(れんせい)されていく──怒りや憤怒(ふんぬ)は聖霊からの呼び声でもあって、それは本来顕現(けんげん)されるべきエネルギーの存在を僕らに呼び掛けている。それは、単に感情的・攻撃衝動の発散としてではなくて、そこには現実に顕現されるべき深く明敏な叡智(えいち)や、深い統合性や公正性の実現を需(ま)つエネルギーの存在やその潜在力が在る事を僕らに指し示しているんだよ。


 ここで言う、需(まつ)、とは、積極的な、まっている姿勢であって、内実に豊潤(ほうじゅん)な力を持ちながらも控えていて、その実現の時期や機会をまっている姿勢や状態を言っている。ときが来たら、直ちに立ち向かおうとする力の存在を顕(あらわ)している。こうした潜在力を、怒りや憤怒という感性や感情を通して、聖霊はその実現や顕現を僕らに呼び掛けているんだよ。


 僕らは、感情や感覚を通して、こうした生命が本来持つ深い精神性や魂の喜びを見出していく。その実現や顕現に向けたエネルギーの存在を識(し)るんだ。それらを恣意(しい)的に野放図に使うのではなく、深く強く自分の中の魂の情熱の炎で錬成(れんせい)していくんだよ。それをそうしたストレスフルな状況を使って鍛(きた)え上げて、錬(ね)り上げていく。これが何世紀も受け継がれてきた魂の錬金術の示す秘密の暗号、道程や過程であって、死と再生のイニシエーション、黄金の魂への道なんだ。


 僕らは一人ひとりが、その潜在力を持っている。そんな力はないと、無力だと思わされているだけで、本当はそれだけの豊潤な内実や潜在力を持っているんだよ。その為に、生命エネルギーのすべてを燃やし尽くして魂の仕事へと自律的に入っていくんだから。


 自分が生きているこの世界やこの国の酷い状況を嘆く前に、自分自身のそうした潜在力を真摯に呼び出して、その生命力を燃え立たせていく事だよ。魂の仕事にそれぞれが自律的に入っていくことが、本当に世界やこの国を護る力になる。叶うとか叶わないとかではない。ただその実現や顕現に向けて、自分自身がそのエネルギーそのものになっていく、そのエネルギーを生きていく事が大切なんだよ。その先に何があるかは未知で、何の保証もない。それでもそれぞれが自分自身の魂の本質に立ち返ってそのエネルギーを完全に燃焼させていく先には、未だ顕現していないその人自身の未来の姿がある。


 ──それはどんぐりを呼ぶ樫の木の存在でもあって、君達自身のエネルギーの顕現を今もこの瞬間も未来で需(ま)っているんだよ」


 聖一さんの言葉は、私や海のどこか深いところへと、永遠へとこだましていくようだった。そのひとつひとつの言葉に、その響きに、目も眩む様な幾重にも重なる多層的な幻影、残響を見た気がする。その中でも私に何度も何度もそのヴィジョンを見せたのは、先住民族のシャーマンだった頃の彼の姿やその声だった。


「──私、これと同じような事をずっと昔にも、貴方(あなた)に教えてもらっていた気がする」


 私がそう言うと、彼は何も言わずに少し微笑んだ。そうしてじっと、私を見つめた。あの透明な眼差しで。そして海にも同じ眼差しを向けた。


「僕らは何度でも何度でも生まれ変わり死に替わりしても、同じ魂の目的に向かって進む、ひとつの大きな魂だから。それは永遠の故郷やオメガポイントに向かって今この瞬間も全生命の魂のエネルギーを懸けて向かっている。僕らの夢や、真摯な願い、希求はそうして受け継がれて、叶うか叶わないかは問題ではなく、その実現や顕現に向けてその炎を今この瞬間も燃やし続けているんだよ」


 海が自分の腕をさすりながら、「やばい、また鳥肌がたってしまった」と言って、「言葉より先に、軆(からだ)が先に反応してしまった。皮膚の下で微電流が軆中を駆け巡るみたいだ。うまく言えないけれど、こういうのって聖一さんが貸してくれた本にあった、霊的な息吹を吹きかけられる、という表現が使われるような状況なのかな?」


 聖一さんはにこっとして頷いた。


「そうか、やっぱりそうなのか」


 海はそう言いながら、腕をさすりつつ納得している様子。


「自分がなにもので、どうありたくて、今こうして生まれて来て、生きているのか──それをそれぞれが真摯に探究する事だよ。それは、この現実世界と切り離されたどこか別の所、別の世界に在るのではない。今、ここで、この瞬間にも、それは顕現している。実現している。君達の一つ一つの選択によって」


「──ここが、この世界が道場そのものだから」

「そうだよ」


 そう言って、聖一さんは私達に言った。


「その機会をどうするかはすべて君達次第なんだよ。それを嘆いていく事も、恣意的に野放図に不満をぶつけて発散させていく事も、その手枷や足枷となる理不尽な状況を使って深く強い魂の炎で自分自身の魂やエネルギーを錬り上げ、鍛え上げ、黄金の魂へと錬成していく機会にもできる。すべては君達次第。その選択次第」


 そうして、続けて言った。


「過ちや罪を犯さないという事が大切なのではなくて、その後であっても何を選択をするか、なんだよ。僕らはみんな魂のバランスの達成に真摯に努める未だそれが顕現されていない存在で、互いに切磋琢磨(せっさたくま)し合っている。その途上にある未達(みたつ)の存在。何をどうするか、その選択を今この瞬間も繰り返し続けて、そうして自分自身の魂の姿かたちを現実に彫り刻んでいるようなもの。それが顕現(けんげん)というものだから。その痕跡(こんせき)となって残した過去の選択の結果をどうするのかも、すべてが自分次第で、その選択次第なんだよ。命の尽きる瞬間までその連続なんだから」


 ふいに私の中から説明のできない何かが揺るぎない力を持って立ち上がって来た。灼けつくような言葉にできない感情や感覚──それは私の肚(はら)の底にあるマグマの様な火炎の海でとぐろを巻いて潜んでいた一匹の龍の様なエネルギーだった。それは、私の背骨の中心を貫く電流の様に一気に駆け上る。そうして、私の額から頭頂部にかけて強い金色の光を放ち、消えた。そんな幻影を私は一瞬の夢の様に見た。それは明晰な白昼夢のようなものだった。


 それは生きる事のすべて、こうして生きている事、在る事、運命も宿命も、自分の歩んできた道や見て来たもの、聞いたもの、何もかも──そのすべてを肯定するような力の根源のようなエネルギーであって、爆発的な歓喜のような生命力の発露だった。何とかしていくだろうし、何とかなっていくだろう──そんな、どこから来るかわからない程に深い深い奥の方から来る、今この瞬間も生きている事の全てを喜べ!! とでも言っている様な、爆発的で暴力的なほどのエネルギー──それは本当に電流の様に、物凄い光を放ちながら私を貫いていく龍の様に、私の軆(からだ)中を駆け巡った。そんな感覚だった。


「──当たり前だけれど、自分自身が犯した過ちや罪を隠蔽(いんぺい)するために被害者や犠牲者に罪をなすりつけたり、脅したり、傷つけたり、誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)したり、病や問題や罪を捏造(ねつぞう)して信頼性を貶(おとし)めたり、殺してしまったり、更に罪や過ちを繰り返し、それを身勝手な正義とすり替えたり、かつて自分達を受け容れてくれた人々の恩に仇で報いる様に、収奪や虐殺を繰り返すようなことを選択して実行するなんて、言語道断で論外だろうけれど、それを実際に何十年も、何百年も、何千年もやり続けている人達や集団が実際にいる事も、その人達がして来た事実も、現実にしっかり彫り刻まれていて、決してそれらをなかったことになんてできない──いくら巧妙な詐術や騙しの技術や力技で誤魔化そうとしても──もう既にそれらは現実に顕現されてしまっているのだから。それを選択したのは彼等彼女等自身なのだから」


 私がそう言うと、彼は「そうだね」と頷いた。そうして、あの透明な眼差しで私を見つめた。


「──そうした人たちがどれだけ社会や共同体にとって有害で、危険で、健全な倫理観を持って真摯に生きる人たちやその未来にとってどれだけ大きな負担となっているか、それだけではなく、この惑星自体にとっても本当に有害で、危険で、大きな負担となっている存在か、そうした事をどんどん明らかにしていく必要もあると私は思う。


 特に、こんな人たちが多くの人々の代表者や管理責任者として組織や共同体、国家の上位に立ったり、影響力を持つなんて、もってのほかだし、多くの人に関わるような責任ある立場に就くのも、権限を持つのも、もってのほか。それは国内外を問わず惑星規模で云えることであって、適切な居場所があるとしたら、本当に刑務所か矯正収容所か精神病院の閉鎖病棟かってくらいの器(うつわ)の人達なのだって事実や厳しい現実を、逃げないでしっかり見据えるべきだと思う。それがどれだけ多くの人々だとしても。少なくとも、こうした人達がそのままで共存していく事はもう無理だって事も認める必要があるし。


 安易で浅薄(せんぱく)な赦しだとか、愛だとか、優しさだとか、思いやりなんかも、ただつけ込まれて利用されるだけの安っぽいおもちゃでしかない事も、その厳しい現実を見据えていく必要があるし、それは本物の赦しや愛や優しさや思いやりの顕現を抑圧して、だめにして、機能不全にしてしまっているという事も、明らかにしていく必要性を、本当に強く感じる」


 熱に浮かされる様に夢中で私がそう言い終わるか終わらないかのうちに、海が笑って言った。


「そりゃあそうだよ。だって、それこそがかつての俺達が魂の仕事にしていた事だし。そうした魂の道に進む人たちにとって有害で邪魔になる虚偽を炙り出していくのもそうだし、それらを片付けて道の整理をしていくのもそうだし」


「それに自分で気づいて、自分から、その魂の仕事に自律的に入っていく事が、君のバランスの達成に必要なことだったんだよ」


 聖一さんにそう言われて、私は、なるほど、と腑(ふ)に落ちた。


「……そうだったんだ」


「だから言ったでしょう。揺さぶられるんだって。自分自身で無自覚につけてしまっている手枷足枷や、何重にもかけられてしまった呪縛や封印を外して、本当に君自身が自分の魂が望む、魂の喜びに沿って生きていく為には、そうした現実からの切実な要請や呼び声が必要だったんだよ」


「──なるほど」


「そうした自分自身で無自覚につけてしまった手枷足枷や、幾重にも重ねてかけられてしまっていた呪縛や封印を、智慧と慈悲の魂の情熱の炎で跡形もなく焼き祓(はら)っていくのが、聖霊の呼び声や怒りや憤怒のエネルギーでもあるんだよ」


 そう海が言って、聖一さんが頷く。


「──なるほど。だから、海は、感情や感覚のエネルギーについて、あんなに自分で思い出せることを一生懸命にまとめたりメモにしたりして、私に言っていたんだね」


「やっと気づいたか」


 にやっとした海に、私は「……ありがとう。なんか、面白くない気もするけれど」


「ひとこと余計なんだよ」


 あきれる彼に、私はぶつぶつと「だって、なんか、悔しい気もしたし」と往生際(おうじょうぎわ)悪く言っていたら、聖一さんが私に言った。


「君は今、やっと本来の自分の魂が設定していたスタート地点に立ったみたいなもの。これまでの事は、ここまで来るための準備運動や助走でしかない。ここからが本番で、正念場だよ。ここからが本当の君の魂の仕事に自律的に入っていく本当のスタートで、ここから先にはもう、いかにそれが現世的な利益をもたらすものであったとしても、騙し(trick:裏技、計略、策略、卑怯なやり方、盗み、秘訣、犯罪、幻覚)の類は一切必要なく、ただただ真実性(truth)のみが必要とされる。今迄は甘かったその取捨選択の選別が君の中でより厳しくなっていく。それだけが、この先の魂の航路に必要とされるものだから」


 何となく背筋を正される様な、そんな気がして黙り込んでいたら、海が言った。


「おめでとう? かな?」

「第二の誕生日を迎えたみたいなものだからね」


 私が黙ったままで二人を見て、それから、おもむろに「聖一さんはわかるとして、いつの間に海が先を行っていたのか。それがなんだか、すごく悔しい」とまたもや往生際悪い事を言うと、二人は笑った。


「何でいつの間に!!(二人で結託してるの!?)」

 

 また私がぷりぷりと怒ったら、また二人は可笑しそうに笑った。聖一さんはわかるとして、何で海にまでこんなお子様扱いみたいなことされないといけないの!!! 私が更にぷりぷりしていると、また二人は遠慮なく笑い転げた。





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